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第27話

「まだ県大会だ。」 静かに、百目鬼が言った。 それはまるで、話を逸らしたみたいに聞えた。 人前だから、というよりも百目鬼本人がその話をしたく無いようだった。 確かに馬鹿な提案はした。 それに周りには他の柔道部員もいる。 けれど、負けた人間がいるから話を変えた風にも見えない。 明らかに百目鬼自身が話したくないのだろう。 は? と思った。 だって百目鬼は、前に俺がその言葉を聞きたくないという雰囲気を察して、あの無茶苦茶な告白をやめてくれただろうか。 そんな俺の思考をぶった切るように百目鬼は「もうその話はいいから」と言った。 その話は昨日の話のことなのだろう。 無かったことにしたいのだと気が付く。 こっちから一歩踏み込もうとすると、百目鬼は逃げる。 お前が、告白してきたんだろ! お前が!! その内容が滅茶苦茶なものだったとしても、なんでも、百目鬼が俺に告白してきたんだろ。 なんで俺が丁寧にお断りされてるみたいな話になってるんだよ。 「はあ?」 思ったより苛立っている声が出た。 彼は県大会で優勝して、お祝いを言うつもりだった。 打ち上げもあるだろうし、同じ部活内の敗者を労わるのだろう。それも理屈では分かっていた。 それなのに出た声はこれだ。 だけど、これは仕方がないだろう。 「今から、ちょっといいか?」 「試合をするって約束は、全国が終わってからのつもりだが。」 「そうじゃない!」 そんなものを今からするつもりはない。 ただ、あのときと似たような苛立ちだということは確かだった。 俺は今、腹を立てている。 それも、割と猛烈に。 だから、周りのことはあまり見れなくなっていた。 「あのさ、なんで喧嘩になったかは俺らにはよく分からないけど、ちゃんと話合った方がよくね?」 話しかけてきたのは柔道部の人間だった。 ちらりと百目鬼を見て、「打ち上げは別に今日じゃなくてもいいし、ちゃんと悔いの無いように話た方がいい。」と言った。 悔いの意味がよく分からなかった。 だけど今はそれを気にする余裕が無かった。 喜べばいいじゃないか。 あんなに綺麗に勝ったのだから。 百目鬼が何に引っかかって、無かったことにしたいのかが分からなかった。 ただ、自分が何に腹を立てているのかだけは、今度はちゃんと分かっていた。

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