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第51話
他流交流当日、道場のワゴンに乗り込む。
父さんと大人がもう一人、それからカナタさん。
計四人が乗り込んだ車は到着したのは郊外にある施設だった。
体育館と保養所が並んだみたいな子供のころ一度こんなところにキャンプに来たことがあるという様な場所だ。
「更衣室もお借りしてるから道着に着替える様に。」
父に言われて車から降りる。
木刀なども持ち込んでいて結構本格的に見せるつもりがあるということが分かる。
荷物の搬入を手伝ってから、着替えをする。
袖を通すと気持ちが静かに整理される。
自分の気持ちは置いておいて、と綺麗に分けるための儀式の様だと思った。
事実、袖を通したあとは気持ちが集中できている。
体育館の中に入ると一面に畳風のフロアマットが敷かれていて、何人もの選手が練習をしている。
夏の暑さと熱気でむわっとしている様だ。
「おーい、みんな。来てくださったぞ。」
おっとりとした言い方で指導者らしき男が声をかける。
返事をして、高校生たちが集まってくる。
その中に百目鬼もいたことを視線の端で確認した。
「以前から話していた通り今日は、一之瀬流という古武術を見せていただけることになった。
皆さんの研鑽の参考に、いつもとは違う視点から刺激を貰えることはいい事だと私は思っています。
是非皆さんも盗めるものは盗んでいただいて糧としていただきたいです。」
指導者はそれから二、三説明をして父に引き継いだ。
「ご紹介ありがとうございます。
まずは堅苦しい説明の前に、実戦を見て頂くのが我々の流派を知ることにつながると思います。」
俺とカナタさんが目配せされる。
柔道用のオレンジの線はちょうどいい範囲だ。
「二人とも。本気でいい。」
父が低い声で言う。
二人そろって頷く。
古流の型を学びたいというなら後で型の指導なり説明なりをすれば充分だし、それなら大人がやった方がいい。
自分に求められてるものは多分そういうのじゃない。
カナタさんもそれは分かってるらしく礼をして開始の合図直後いきなり上段蹴りが来た。
考えるより早く体が一歩引いて受け流す体制に入る。
柔道にも使える技なんてこと頭にはなかった。
そのまま蹴りをいなすため似た様に足を当て、方向を逸らす。
場の空気が張りつめていくのが分かる。
今日の俺はいつもよりよく見えている。
上段蹴りから流れる様に腕をつかもうとするのも見えている。
その前に顔に一発入れて手をつかんで投げの体制に入る。
それからは一瞬だった。
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