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第62話
それなのに、百目鬼は「驚いた。」と言ってくる。
「今回はちゃんと勝つつもりなんだよ。」
俺がそういうと、百目鬼が好戦的に笑う。
百目鬼も勝負というやつが本質的に好きなタイプなのだろう。俺と一緒で。
彼も全く負けるつもりが無いらしい。
百目鬼が向かってくる。
再度襟を取られそうになる。
刹那。体が投げ飛ばされそうになり、こらえる。
それは不発に終わると百目鬼も理解していたのだろう。
すぐさま、足を払われそうになる。
格闘技は駆け引きだ。
押しているように見せて、引く。引いているように見せて押す。
ランデブーのような時間が過ぎていく。
実際大して時間は過ぎていないのに、ずうっと二人きりで世界にいるみたいに思う。
ずっとずっと続いて欲しいけれど、これはそういう訳にはいかない時間。
一瞬が永遠みたいに感じる。
二人の呼吸があっていく。
……筈がない。
呼吸を合わせるのもずらすのもそこに技術がある。
それなら俺の方が上回っている。
百目鬼が小外刈りをかけるがこらえる。
反撃をと思った瞬間、百目鬼払い腰を食らう。
体が回転する。
二つの技のキレに対応が追い付かなかった。
要はそういうことだ。
柔道のルールでと決めたのは自分自身だ。
だから、たらればは無い。
背中から畳に倒れこんで一瞬体がバウンドするようになる。
百目鬼がこちらを見下ろす。
それで自分の状況を悟った。
腕を引かれて起こされて、礼をする。
「あー、糞!!」
負けてしまった。仕方がない。
仕方がないけれど、悔しい。
終わった瞬間、暴言吐くのは最低だと知っていても声が出る。
もう少し、柔道に対応できるようにしていれば。
前から柔術をもっと学んでおけば。
頭の中では次に向けて考えているのに、心が追い付かない。
次は絶対に勝ちたいと思っていたのだ。
ちゃんと手加減をしていない百目鬼に勝ちたいとずっと願っていた。
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