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第61話

翌日、百目鬼は家に帰ってきたと簡素なメッセージをよこした。 休養日は必要だから二日後、道場を使えるように父に頼んだと返した。 お互い以外の誰かに見られたいと思わなかったのだ。 俺の家の場所はやっぱりというか、なんというか、百目鬼は知っていた。 春香から聞いたのだろう。 待ち合わせの時間の十分程前にあらわれた百目鬼に「優勝おめでとう。」と言う。 百目鬼は目を細める。 「まずは最初にした約束を果たしてほしい。」 百目鬼もそのつもりの筈だ。 スポーツバッグの中には道着が入っているのだろう。 俺が道着で待ち構えていたことにも百目鬼は何も言わない。 百目鬼を着替えさせて、道場で二人きりで対峙する。 「審判は別にいらないだろ。」 百目鬼を見据えて言う。 寝技になったら対格差がある。多分抜け出せない。 極まってるか外れてるかの秒数にこだわったところでどうしようもない差があることを知っている。 「それでいい。」 「今日は手を抜くなよ。」 「ああ。」 深呼吸をする。 それから、呼吸が百目鬼に読まれない様なものに切り替える。 百目鬼が襟をつかもうと手を伸ばす。 簡単に、百目鬼のペースにはさせない。 お互いに、襟をつかもうとして手を払いあう。 百目鬼が襟に手をのばす。 その瞬間足を肩にかける様に、百目鬼の飛びつく。 そのまま肩ごと体制を崩して腕の関節を決めにかかる。 飛びつき十字固めというれっきとした柔道技だが、うちの流派にも似た型がある。 腕挫十字固は最もよく極められるともいわれる関節技だ。 これまで何度も何度も繰り返し磨いてきた技だ。 それでも決められない。 ギリギリのところで体を回転させて百目鬼が立ち上がろうとする。 どうしてもパワーで勝てない事は認めざるを得ない。 そのままもつれるが腕関節を完全に極めることができない。 道着を直しながらお互いに立ち上がり仕切り直す。 最初の勝負と、それから恐らく合宿中の動き。 その二つでかなり対応されてしまっている。 百目鬼は強い。 だから、楽しい。

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