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第91話

鬱血痕は隠しようがなくて諦める。 コンビニかどこかで絆創膏でも買った方がマシかもしれない。 昨日泣きすぎて、まぶたが腫れぼったい。 体全体が少しだけ重たくて、動くのが億劫だ。 体を動かすのが億劫だなんて思うことはめったにない。 体全体が気だるくて、思わずため息をついてしまう。 「その色気駄々洩れどうにかならないのか?」 百目鬼がまたよく分からないことを言う。 「いつもの犯したくなる、とか舐めまわしたくなる、ってやつか? はいはい。」 適当に受け流すと、百目鬼がなんとも言えない顔をする。 「せめて、これだけ着とけ。」 出されたのはジャージっぽいパーカーだ。 「夏だぞ……。」 長袖は無い。というか、なんで持ってるんだよ。 「首の跡、少しは隠れるだろ?」 そう言われると言い返せずしぶしぶ着る。 どう考えても洗いたてなのに百目鬼の匂いがする気がして、よくない。 腕まくりをぞんざいにしてぼんやりとしていると、朝食が来た。 朝はトーストも好きだけれど、こういう和食って感じのも好きだ。 それに、百目鬼と朝食を一緒に食べる機会なんて多分めったにない。 ふかふかの座布団に座る。さすがに今日正座するのは無理だ。 昨日よりは現実味がある。 目の前の食事にも、百目鬼と昨日した性行為にも。 「また、こうやって二人でどっか行きたいな。」 白米とみそ汁を食べながら百目鬼に言うと「そうだな。」と言って微笑まれる。 こんな関係になるとこの前まで全く信じられなかった。 「美味いな。」 「そうだな。」 「今度はゆっくり、景色でも見たいな。」 「ああ。」 たまご焼きが美味しい。 食べていると「俺の分も食べるか?」と聞かれた。 本当に俺のことよく見ている。 百目鬼も別に嫌いな食べ物って訳じゃないんだと思う。 弁当箱に入っていたところを何度も見たことがある。 だけど、今日は甘えてみたい気分だった。 昨日のことがそういう気分にさせてしまった。 「……じゃあ、貰う。」 たまご焼きをもう一切れ。 穏やかな、甘やかな。くすぐったい。そんな気持ちで朝食を食べる。 こんな日が来るなんて思わなかった。

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