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洋食店の仕事

オフィス街から少し離れた場所にある洋食店。 3人の従業員が閉店作業を続けていた。 「2人とも、お疲れ様!」 作業を終えると、店長の影石高貴(かげいしこうき)が終わりの挨拶を告げた。 「お疲れ様です、店長」 軽井沢純(かるいざわじゅん)が、相槌を打つ。 「あー、やっと終わった!」 純の同僚の相田仁志(あいだひとし)が、軽くのびをする。 「相田くん、今日も軽井沢くんの見送りお願い」 高貴が店のシャッターを閉めながら、仁志に頼み込む。 もし帰り道で発情期が来たとき、すぐ助けられるように、純と仁志はふたり一緒帰るのが通例となっていた。 「うっす!さ、ジュンちゃん、一緒に帰ろ!!」 「うん」 「ねえ、こんなこと聞くの、超失礼だけどさ、ジュンちゃんって店長のことねらってるカンジ?」 道中、仁志がそんなことを言ってきた。 「え?」 驚いたと同時に、ムッとした純の顔を見た仁志は「しまった!」と言う顔をして、あわてて訂正の言葉を述べた。 「あ、いや、君はオメガだし、店長はアルファじゃない?ていうか、前にいたんだよ。店長がアルファだって知って、入ってきたヤツ。店長に「発情期がツラいから番にしてください」って袖の下渡したんだよ」 「え?は⁈」 純は思わず立ち止まった。 それに合わせて、仁志も立ち止まる。 「その子、発情期がツラいらしくてさ、薬も効きが悪いから、番になってくれるアルファ探してたんだって。「番になったから責任取れとは言いません、ただ発情期を止めたいだけなんです」だって。すっごい切羽詰まってるカンジだったよ」 「あー…気持ちわかる、かも……ぼくも薬の効きが悪いから……」 「あー、ジュンちゃん、よく休んでるもんねえ」 仁志の言葉に、純はばつが悪そうな顔をして俯いた。 「ごめん……」 「謝ることじゃないよ。オレだって、ケガとか病気したら休むし、そうなったら、ジュンちゃんもワリ食うんだから。お互い様!!」 仁志がにかっと笑うと、純の肩を叩いた。 それからしばらく歩いて、純の家の前に着いた。 「じゃあ、また明日ね!」 仁志は手を大きく振って純を見送ると、ゆっくり背を向けて去って行った。 「うん!」 純も大きく手を振って、家に入っていった。 部屋に入ると、ベッドに寝転がって、天井を見上げた。 ──ぼく、いいところに就いたなあ… 純の口角がゆっくりと上がる。 今の生活は、本当に充実していた。 今の仕事に就いて3ヶ月。 仕事は楽ではないが、やりがいはあるし、従業員との関係も良好そのものだ。 過去には「金持ちでイケメンなアルファを見つけて結婚し、さっさと寿退社して、楽しく華やかに暮らすこと」を目標に、合コンや花嫁修行と称した料理教室通いに夢中になっていたが、今は違う。 今の純は、仕事に生きがいを見いだし始めていた。 みんなでまかないを食べながら談笑したり、仁志と世間話しながら帰るのが、最近の楽しみだ。 ──まあ、発情期がしんどいから、番は欲しいっちゃ欲しいかなあ…… 寝転がったままボーっとしていた純は、脇に置いたスマートフォンを拾って、何気なく「M区IT企業CEO刺殺事件」と検索してみた。 有名な事件だから、いざ検索してみれば膨大な量のサイトが出てくる。 その中から、純はまず辞典サイトの概要ページを開いた。

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