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王子様とお姫様 ※
結希人と会った1週間後。
2人は隣町のラブホテルに来ていた。
結希人が渡したものは、ラブホテルの招待券だったのだ。
「知り合いがここの経営に携わってるんだ。よかったら行ってみて、なかなか面白いよ」とのことだ。
「普通さあ、初対面の友達の恋人にラブホのチケット渡すヤツなんかいるー?」
先日の結希人の言動を思い出して、純はクスクス笑った。
「普通は渡さないんだよ、普通はね。でも、アイツは渡すんだよ。ごめんなジュンちゃん。悪いヤツじゃないんだよ。いいヤツでもないけど…見た目あんなんだし、ちょいちょい失礼だし……」
仁志は呆れ顔で頭をかいた。
結希人の姿を初めて見たとき、純は心底驚いてしまった。
髪は見たこともないような派手な色に染められているし、体のあちこちにピアスを開けていて、腕や首には一面のタトゥー。
そのあまりにクセの強い外見に、最初はドキリとしたが、話してみると、なかなかどうして面白い。
存外、話題が豊富で語彙力が高いのが見て取れた。
「悪い人じゃないなら、それでいいんじゃない?ぼくたちの部屋、ここだね」
「うん?あ、そうだな、ここだ」
2人でラブホテルの廊下を歩いていくうち、指定の部屋に着いた。
「何これ?」
「うーん、お城の中?とかそんなんイメージしてんのかね、コレは」
ドアを開けると、これまた見たこともないような空間が広がっていた。
ロココ調というのだろうか。
広々とした部屋には、猫脚のテーブルセットにフリルのカーテン、純と同じぐらいの背丈があるヴィーナス像、壁には薔薇や百合のレリーフ。
天井からは豪華で巨大なシャンデリアがぶら下がっていて、部屋を明るいオレンジに照らしている。
しかし、何より2人の目を引くのは、部屋の面積の大半を占拠するクイーンサイズの天蓋付きベッドであった。
ベッド脇のチェストの上には、この部屋には不釣り合いな電気マッサージ機、ピンクローター、ローション、コンドームが置いてある。
「すっげえな、ここ…」
言いながら仁志は、部屋の中央に設置されている猫脚のソファに腰かけた。
「うん、こんなゴテゴテしたテーブルでごはん食べたら、味わからなくなりそう」
仁志の隣に座った純が、目の前に置いてある猫脚のテーブルをツンツンと指先で突ついた。
テーブルの上にはアンティークデザインの花瓶が置かれていて、それに薔薇の花が数本活けてある。
白磁のテーブルは金色の装飾に縁取られていて、それがシャンデリアの光を浴びてキラキラ輝いていた。
「ここには何が入ってるのかな?」
純はソファから立ち上がると、部屋の隅にドンと立っている猫脚のクローゼットの扉を開けた。
このクローゼットも、観音開きの扉に薔薇だの百合だのフルール・ド・リスだのの装飾が一面に施されていて、なかなか主張の激しいデザインである。
「なんにも入ってないんじゃない?何か入ってるとしたら、アウターかけるためのハンガーくらいだよ」
仁志が着ていたジャケットを脱いだ。
「いや、ぜんぜん違う。レンタル衣装だね、コレ。うわー、すごいなあ」
純はクローゼットに上半身を潜りこませて、ゴソゴソ物色し始めたかと思うと、中にあった衣装を1着引っ張り出した。
「ああ、なるほどねー…って、何それ?」
純が手に持っている衣装を見て、仁志はポカンと口を開けた。
純がクローゼットから取り出したのは、18世紀の貴族風衣装であった。
「これでヤるの?どんなプレイ?」
仁志は苦笑いするしかなかった。
通常、ラブホテルで用意されている衣装というのは、大抵は縫製が雑で生地が薄く、全体的に粗雑なものが多いが、これは違った。
やたら装飾が凝っているネイビーのフロックコートに、スタンドカラーのフリルシャツ、それとは対照的にすっきりシンプルなスラックス。
まるで大手劇団が所持している舞台衣装みたいだ。
「ふふっ、ねえ仁志。せっかくだからさ、これ着てみてよ」
「ええー」
純の要望に、仁志は苦笑いで返した。
「ぼくはこれ着よっかな!」
言うと純は、童話のお姫様が着るような、フリルとリボンたっぷり真っ白なネグリジェを引っ張り出した。
ガラじゃない衣装を着るのに抵抗はあったが、可愛い恋人のたっての望みとあっては拒否できない。
「芸人がコントでやる王子様じゃん、コレ…」
着替え終わった仁志は、これまた派手なロココ調デザインのスタンドミラーに自身を写し、感想を述べた。
いかにも今どきの日本の若者といった顔つきと、数百年前のフランスで流行ったであろう派手な服は、まるで合っていない。
見事なまでにケンカしている。
「ええー、いいじゃんいいじゃん!カッコいいよ仁志!!」
そんな仁志の隣で、純はネグリジェの裾をヒラヒラ揺らして舞い上がっていた。
どこにあったのか知らないが、ご丁寧に花冠までかぶっている。
「そうか。そりゃ、ありがとう…」
形ばかりの礼を言った途端、急に純が抱きついてきた。
瞬間、仁志は体が異様に昂ぶるのを感じた。
純の発情期が来たのだ。
「ねえ、王子様…わたしのこと助けてくれる」
純が抱きついたまま、とろんとした瞳で仁志を見つめてきた。
「わかったよ、お姫様」
「んんっ…はあっ、ん…」
2人はベッドに移動すると、熱い口づけを交わした。
「このネグリジェ、えっちだなあ、乳首透けてんじゃん」
唇を離して、ベッドに寝そべる純を見下ろすと、生地の薄いネグリジェが汗で張り付き、純の体を露わにしていた。
仁志がネグリジェ越しに、純の乳首を指先で優しく優しく撫でさすって可愛がってやると、純はビクビクと震えて背中を反らした。
そうすると純の股が濡れてきて、そこにネグリジェが張り付くと、足の付け根や兆した男根の形がくっきりと浮かび上がる。
その扇情的な光景に、仁志は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「や…んっ、そこ、だめえ、イっちゃう…!」
「どうして?ジュンちゃん、ここ好きじゃん」
仁志は、ちょっと意地悪したい気持ちにかられて、純の乳首を爪先で軽くはじいた。
そのたびに、純はいやいやをする幼児のようにかぶりを振って喘ぐ。
「…挿れてえ、前戯とか、いいからあ…!」
「え、でも…」
挿れるのはもう少し後と考えていたので、仁志は戸惑った。
「いいから、はやくう…」
純がネグリジェの裾をめくって懇願してきた。
そこはもう、しとどに濡れそぼってしまって、蕾は雄を求めてヒクヒク動いている。
「…わかったよ」
言われた通り、仁志は前をくつろげて男根にコンドームをつけると、純の胎内に侵入していった。
「あんっ!あっ…ひんっ、んんっ…イイッ、気持ちいいよお…あ、だめ、イッちゃう、もう、出ちゃう!」
純のそこは男根をきゅうきゅう締めつけて離さず、そのあまりに強い快感に、仁志は頭がクラクラしてきた。
「うん、俺も出すね、お姫様!」
2人とも、挿入して間もないのに、あっという間に達してしまった。
その後も数回交わっているうち、疲れた2人はそのまま寝込んでしまった。
先に起きたのは、純の方だった。
何気なく、隣で寝ている仁志の顔を覗き込んでみる。
──王子様ってか、ほぼ狼だったなあ…
すうすうと規則正しい寝息を立てている仁志の顔を見て、純はそんなことを思った。
それでも、純はそんな狼が好きでたまらない。
──これからもよろしくね、ぼくの狼さん!
純は寝ている仁志の胸に顔を埋めると、もう一度眠りについた。
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