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はじめまして!
レストラン街の真ん中にある、若者に人気のオシャレなコーヒーショップ。
結希人は中学生の頃からの友人の仁志に、「紹介したい人がいる」と呼び出されていた。
「ねえ仁志、その子が新しいカノジョ?」
向かいに座った仁志と、紹介したいと言っていた人に声をかける。
「そうだよ。この子、ジュンちゃんっていうんだ」
「あー、はじめまして、結希人さん。軽井沢純です」
紹介したいと言って仁志が連れてきたジュンちゃんが、ペコリと頭を下げた。
ジュンちゃんは華奢で小柄で女の子みたいな可愛らしい顔をしていて、首に固そうな本革の拘束具をつけている。
その外見から察するに、目の前にいるこの子は、まごうことなきオメガのようだ。
オメガのジュンちゃんは、結希人の姿を見るなり、驚いた顔をしていた。
もっとも、大半の人はこういう反応をするのが常だから、結稀人は大して気に留めてはいない。
ネイビーブルーに染められたツーブロックの髪に、たくさんのピアス、広範囲に及ぶタトゥーという奇抜な風体をしている男が目の前に現れたら、大半の人は驚かざるをえないだろう。
「この子、前に言ってた同じ職場のオメガの子?」
オメガのジュンちゃんの反応などあまり気にせずに、結希人は仁志に疑問を投げかけた。
「そうだよ。いろいろあって、付き合うことになったんだよね」
仁志は嬉しそうな顔をして、オメガのジュンちゃんへ視線を向けた。
その眼差しの、なんと熱いこと。
中学生の頃は剃り込みを入れてツッパって、毎日ケンカばかりしていた姿が嘘のようだ。
それだけでわかる。
仁志はホントにこの子のことが好きなのだ。
──成長したもんだなあ…
結希人の知っている仁志は、女子からの受けが非常に良かった。
それだけに2股3股なんて当たり前だったし、
そのことでしょっちゅうトラブルを起こしていたし、それに結希人も巻き込まれたことがある。
「ジュンちゃん、はじめまして。かわいい子だね」
「ありがとうございます」
結希人の褒め言葉に、ジュンちゃんの頬がほんのりピンクに染まる。
「あのさ、こいつのどこを気に入ったの?オレはこいつの親友だし、こいつのことは良いヤツだって思ってるけどさ、他人から見たらどうかと思うでしょ?中卒だし、年少上がりだし」
「ねんしょう?」
ジュンちゃんがキョトンとした顔をして、首を傾げた。
「少年院のことだよ」
「ああ、なるほど」
仁志から説明を受けて、ジュンちゃんは納得いったような顔をした。
「ねえ、ジュンちゃん。仁志の両親は普通の人だよ?それに、ベータだからジュンちゃんとは番にもなれないし、親御さんとかは何か言ってこないの?反対されなかった?」
結希人は矢継ぎ早に、疑問を口にした。
「本音を言うとね、ホントはアルファの人と番になることに憧れはあるよ。でも今は、そんな憧れとか別にいいと思えるくらいに仁志のことが好き!」
ジュンちゃんがそう言ってにっこり笑ってみせると、今度は仁志の頬がほんのりピンクに染まった。
──これなら、問題ないのかなあ
仁志のことが好きだとはっきり言ってのけるジュンちゃんに、結希人は妙な安心を得た。
これからだって、うまくいく保証はない。
些細なことからすれ違ってしまって、悲しい別れを遂げてしまう恋人たちは多い。
しかし、今はそれでいいだろう。
この調子なら、自分の出る幕など無い。
そもそも、親友とはいえ、2人の間に割って入ってアレコレ言う理由もあるまい。
結希人はそう判断すると、脇に置いていたバッグから、長方形の紙切れを2枚取り出した。
「ねえ、2人とも。よかったら、コレ使ってね」
そう言って、意味深な笑みを2人に向けた。
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