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第2話
相手に対して誠実たれ。何度も何度も口癖のようにそう教えたのは父だった。その教えは桜宮 彰人の中に深く深く刻まれていて、もはや取り除くことはできない。彰人の兄は父に似て誠実であり穏やかな人柄であったが、弟の彰人はどうしても物事を固く考えてしまい白は白、黒は黒と明確に分けてしまい融通の利かない性格になってしまった。そんな彰人を心配して母はあれこれと助言をしてくれるが、それらはどうしても彰人の心情に反し、一度や二度は試みてみるもののすぐにそれをしている自分に嫌悪と憎悪が沸き上がって、たったひとつを除いて彰人はすぐにそれらをすることはなくなった。母が我が子を想うがゆえの助言であることは彰人にも理解できていたし、それをすることによってあるいは円滑に交友関係を持つこともできるかもしれない。母が言うことの幾つかは父や兄もしていることだ。だがどうしても母の言う行いは彰人にとっての黒に分類されて、それで良しと割り切ることができないでいた。
長子として、アルファとして生まれたのが兄でよかったと、彰人は心の底から思う。自分が融通の利かない人間であることも、物言いがキツイので人から好かれるような性格ではないことも重々自覚している。名家の中でも群を抜いている冷泉家と北大路家の子息が伴侶を選ぶために見合いをすると聞いても、その候補の一人として己が選ばれていると聞いても、彰人は最初から自分が選ばれる可能性は万に一つもないと理解していた。
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