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第3話
桜宮家は誠実であるが、ここ最近は不況の煽りを受けて経営難であるので冷泉家や北大路家と縁故を結べるのであればありがたいことこの上ないが、他の候補の者たちは皆家柄が良く、格だけで言うならば彰人の桜宮家が最下位であろう。それでも選んでもらえるほど人目を惹くような美しい容姿を持つわけでも、相手を楽しませるだけの話術があるわけでもない。一応サロンに行った時には母の言いつけ通りに手土産を持参して大公妃に挨拶をしたが、そんな自分がひどく滑稽に見えて結局止めてしまった。何より、そう深く関わったことが無いというだけで冷泉家も北大路家も、己以外の候補者たちもパーティーなどで顔を合わせており、皆ある程度は互いの性格を知っている。今更取り繕ったところで無駄な話だ。そう考えた彰人は早々にサロンに居るだけの存在となり、皆が隙あらば大公たちや見合い相手に話しかけようとするのを静かに眺めていた。
選ばれることは無い。まして自分の至らなさが原因で陰謀に巻き込まれ、冤罪を着せられそうになっている。家の為に参加したような見合いであるのに、逆に迷惑をかけている事実に頭が痛い。だというのに、彼は綺麗な身なりをして桜宮家に現れた。
北大路家の子息にしてアルファ。遊びが過ぎると噂の見合い相手。
犯してもいない罪を断罪しにきたのかと眉根を寄せた彰人の前で、彼はいつものように笑みを浮かべながらキザったらしく彰人の手をとって口づけをした。
「親とも話し合って、君にすることにしたよ。ねぇ、彰人。俺の番になってくれるよね?」
彼は信じてくれるというのだろうか? 家柄など関係なく、自分を選んでくれたのだろうか? そう思うと頬に熱が集まってきて、どうしようもなく俯いてしまう。だが胸の内に沸き上がるのは喜びであることに間違いはないのだ。
けれど、と己を戒める声が彰人の中で響き続ける。
彼は、運命の番ではない。であるならば、彼にはどこかに、運命の番がいるのだろう。これは家同士の見合いで、彼に選ぶ権利があったとはいえ、彼が己を愛しているからではなく、己も彼を愛しているかと問われれば迷いなく頷くだけの想いは持ち合わせていない。
仲良く出来たら良い。そうは思うが、それでも、いつ終わりが来てもおかしくはない未来だと、それは頭の片隅に置いておかなければならないことだった。
そうして、彰人は一応己にプロポーズした相手である北大路 泰都に対し、頷きでもって応えたのだった。
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