5 / 22
第5話
出雲大公、駿河大公と呼ばれる二人の大公は適齢期を迎えるとつつがなく番関係を結んでいたが、志摩大公と呼ばれる大公にだけは二十七年もの長い間番が見つかっていなかった。そんな彼にもようやく番が現れ、そして三人の大公にはそれぞれ可愛い子供たちも産まれている。
大公妃と呼ばれる大公の番は結婚式の時以外で公の場に姿を見せることはない。それゆえに彰人も大公の下で国を動かす重鎮の番や愛人が彼らの仕事が終わるまで待つサロンに行って初めて、大公妃たちの顔をまともに見ることができた。愛され続ける大公妃たちは三人とも美しくて、光り輝いているようにも見える。そんな彼らを全力で愛し、独占欲を露わにする大公たちにも彰人は美しく得難いものを見たような気持ちになった。
(まさかあの方たちが仕切るサロンに再び通うことになるとは思ってなかったけど)
自室でダンボールに荷物を詰め込みながら彰人はそんなことを思う。彰人の発情期が来ていないためまだ番関係こそ結んではいないが、華々しい結婚式は既に行われた後で。そんな新婚ホヤホヤであるはずの二人がいつまでも別々で暮らしていてはおかしいだろうということになり、泰都が今住んでいる高級マンションに彰人が引っ越すことになったのだ。
オメガであるとはいえ冷遇されているわけでもなく、兄と同じくらい広い部屋を与えられていた彰人の自室には常人よりもいくらか多いであろう私物が置かれている。ソファなどの大きなものは置いていくが、それでも持っていこうと思っている荷物は多かった。マンションで与えられる部屋は今の自室よりも広いので場所的には問題ないであろうが、荷造りはやはり骨が折れる。使用人に手伝ってもらうことも可能ではあったが、彰人はそれを頑なに拒否して自らひとつひとつダンボールに納めていった。
こんなに持って行って迷惑だろうか、と積み上げられたダンボールを見て思うが、そもそも相手は幼少期から己を知っているのだ。当然、彰人のある種の物欲もよくよく知っているのだから考えるだけ無意味だろう。大切なモノをしまい込んだ箱を他の荷物に紛れるようにダンボールに入れて、そして最後に臙脂のブランケットを手に取る。手入れを怠らないからか、何年経っても変わらないふわふわと柔らかな手触りに頬を埋め、そしてそれもダンボールの中に入れて蓋を閉めた。
ともだちにシェアしよう!