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第20話

 ほんの少し目を伏せた彰人の胸の内を知らない泰都は楽しそうに予定を立てている。もしも彼が過去を知る時が来たならば、その時彼は何と言うだろうか。  彰人の頭の中で幾つもの言葉が浮かんでは消えるが、そこに優しい言葉などひとつもありはしない。責められ、罵られるのか。あるいは、未だかつて向けられたことのない冷たい視線を向けられるのだろうか。考えれば考えるほど胸がひどく重くなる。  あぁ、早く部屋にかえりたい。 「あ、でもそういえば一度顔を見せに来いって父さんに言われてたな。買い物の時に何か洋樹(ひろき)へのお土産でも買って、帰りに屋敷に寄れば良いか。彰人はどう? それで良い?」  洋樹は泰都の少し年の離れた弟で、彰人も結婚式の時に一度顔を合わせたことがある。洋樹にしても、彼の両親にしてもさして親しい仲ではないので少し気が重いが、結婚して義家族となったのだから避けて通ることなどできない。 「かまわない」  ただそれだけを言って、彰人はあれこれと話しかけてくる泰都に相槌を打ちながら食事を終え、流石に少し疲れてしまったと言ってシャワーを終えるとすぐに部屋へと戻っていった。それに対して泰都が何も言わずに受け入れてくれたことが幸いと言えるだろう。  パタンと扉を閉めると、痛いほどの静寂が広がる。フワフワとしたぬいぐるみの山に埋もれるように横になって、彰人は大きな熊のぬいぐるみに隠していた臙脂のブランケットを取り出すと、ギュッと胸に抱き込んだ。  ふわりと鼻腔をくすぐるのはシトラスが混じったアルファの香り。その香りと柔らかな手触りに、フッと肩の力が抜けていく。見えない腕に抱かれているような温もりを感じて、彰人は静かに瞼を閉じた。

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