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第7話 病める時も健やかなる時も

 京都駅で簡単に昼飯を食って、早めの新幹線に乗った。  思い付き弾丸旅行は、これで終わり。  何か悩んでいるらしい志信が、これですっきりすればいいと思う。  座席に落ち着いたのと同じくらいのタイミングで、新幹線は駅から滑り出る。  それほど時間を置かずに、長いトンネルに入った。 「亨輔」 「ん?」  いつもそうしているように、二つ並んだ座席の窓側が志信で、通路側が俺。  志信はなんてことない素振りで顔を窓の方に向けているけど、外が暗いから、妙に緊張した顔なのがうつっている。  他の客に見えない角度で手をつないで、ぎゅって握ってやったら、一つ息をついてから志信が言った。 「一緒に暮らそう」  はい? 「志信? マジで?」 「ちょっと前から考えてはいたんだ……」  志信の気持を信じていないわけじゃないけど、そこは半分以上諦めていた。 『結婚』という形が取れない俺たちには、同居というか同棲が形としてはかなり重要な愛のカタチなんだけど、これがなかなかハードルが高くて。  若い時ならいざ知らず、年齢を重ねてからの男同士の同居なんてあまりあることじゃないから、周囲からの目や誹謗中傷を考えないといけなくなる。  それに志信も俺も不規則な仕事だし、何より志信は役者なのできっと自分だけの時間と空間が必要で、同じ家というのは難しいんじゃないかと思っていたのだ。 「今度、声かけてもらってる事務所に所属しようと思ってて」 「うん」 「そこと話しているときに、いいかなって思った」  俺たちはつき合っていることを隠していない。  大っぴらにもしていない。  ただ今まで、つき合う以上の形に憧れていても「だからどうする」って、具体的な話をしたことはなかったんだ。 「パートナーシップとか養子縁組もさ、そのうち考えたいけど……でもまず、一緒に暮らして今まで以上にお前を安心させたい」 「志信?」 「お前、実はすげえオレのこと心配してるだろ? 信じてくれてるけど、お前と付きあう前のオレの所業とかさ……そういうのも考えたら、よくオレの仕事反対しねえよなって、思う」  手を握る力を強くして志信が言った。  俺は緩く首を横に振る。 「付きあう前からお前は役者だし、役者のお前に俺は惚れたんだ」 「うん、わかってる。だからってそれでいいことにはならねえだろ。オレが気が付かないとこで、体調とか生活全般気にしてくれてるのも知ってる」  俺は志信が気に病まないようと思っていたけど、志信は志信で、俺の気持に胡坐をかきたくないと思ってくれていたらしい。 「事務所が許可してくれてるし、理解もしてくれてる。もしも将来的に、お互いに何か不慮のことが起きた時に、ただ付きあってますだけじゃ、連絡ももらえないし手を貸すこともできない」  志信は俺の顔を覗き込み、しっかりと目を合わせてきた。 「オレは、病める時も健やかなる時もお前と一緒に居たい。だから、オレの独りよがりじゃなかったら、一緒に暮らそう」 「志信」 「大丈夫。二人でいてもお互いを食いつぶしあったりしない」 「同居して大丈夫かどうかが『試し石』に聞きたかったことか?」  一瞬、目を丸くして俺を見た志信が、ふふふ、と笑う。 「残念、微妙に違う」 「違うのか?」 「違う」

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