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第6話 危険物注意
志信は何も言わない。
だから、俺もあのあとは何も聞いていない。
志信は静かに石を持ち上げて、そっと元に戻した。
それだけ。
「お前はしねえの?」って聞かれたけど、今のとこを『試し石』に頼らなきゃならないような迷いはないので、首を横に振った。
鳥居の道は一方通行らしくて、来た時とは違うトンネルをくぐって帰途につく。
山を一周する鳥居の道があるそうだけど、結構な距離だというので今回はパス。
だからと言って次回に挑戦するかと聞かれても、お断りする気はしている。
志信はただ黙々と歩く。
本殿を過ぎて土産物屋が並ぶところに来た時、気が付いた。
「あ」
「何?」
「焼き鳥」
ふわっと空気に混じる、香り。
開店準備に忙しそうな店先に、それはあった。
「志信」
「なに」
「あれ、か? お前が嫌がってんのは」
ざざっと道の反対側まで逃げてから、志信が言った。
「指をさすな! そっちに向かうな! オレは行かねえからな!」
そんなに嫌がらなくても、無理強いしねえよ子どもじゃあるまいし。
店先にセットされた炭火焼きセット。
置かれたサンプルと値段表に書かれているのは『スズメ』『ウズラ』の文字。
見事に形のわかる状態で丸一羽ずつ、串刺しにされてたれ焼きになっている。
なんだこれ。
「お稲荷さんは農業の神様やさかい、稲に悪さするスズメは見せしめにされるんですよ」
しげしげと眺めていたら、店の人が出てきてそう教えてくれた。
「へえ……うまいんですか?」
「どうですやろ……好きなお方は『たまらん』て言わはりますけどねぇ」
ふふふと笑いながら店の人が言う声色で、なるほどそういう傾向の食べ物なのね、と思う。
「亨輔ぇ~……」
「うん、待って、写真だけとっていく。いいですか?」
店に人に確認。
頷いてくれたのでスズメとウズラ、一枚ずつ撮ってその場を辞し、離れて待っていてくれている志信のとこに行く。
珍しくビビりまくっているのが、面白い
「……よく直視できるな」
「あんまり元の形わかんなかった」
「そうか? オレにはめっちゃ元が想像できるけどな」
「うーん、食べてないからかな。手元で見たら、違うのかな……」
写した写真を眺める。
うん、あんまりスズメっぽくはない。
「味は、レバーのたれ焼き」
「ん?」
「ただ、小さすぎて骨ごと食うしかないから、手羽中の骨を間違って食った時みたいなバリバリ感がすげえ。そんで、肉はあんまない」
「食ったんだ?」
「おう」
前に来た時に経験だからと食べたらしい。
手元でしげしげと眺めたから、細かいとこまで見えてしまったし、その時の味と感触がどうにも苦手になってしまったんだそうだ。
大胆だと思わせて繊細。
経験だと試して苦手になってりゃ、世話ないと思うんだけど、それが志信。
ホントにおもしろくてかわいい。
「あー、もういいだろ。忘れろ、焼き鳥のことは。戻るぞ」
戻るぞってことは、あとは土産でも買って帰るのかな。
喫茶店での夜明かしと、『おもかる石』に何かを聞くことが、今回志信がしたかったことなんだろう。
まだ開店準備しているところが多い参道をたどって、今度はJRで京都駅に戻った。
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