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第4話 俺は俺として。
自分の感情をどう表していいのか分からない。
困惑はしてる。
前世の話と言ってしまえばそれまで。だけど、そんな簡単に割り切れない。
なんで俺は、アルトのまま前世を思い出さなかったんだ。白瀬俊介として、思い出してしまったんだ。
とは言っても、エイリが言ってた通り俺とアルトの性格は変わらない。一人称が俺か僕かの違いだけだ。
変わったことは、弟への接し方くらいだろう。てゆうか、マジでコイツと俺の距離感がおかしかったんだ。俺も幼い頃から弟可愛い可愛いってブラコン発揮してた。こればっかりは俺にも問題があった。
俺、元々弟か妹が欲しかったんだよな。だから転生して下の兄弟が出来たことで浮かれてしまったのだろうか。分かんないけど。
でもエイリは、というか高遠は別にそれを狙ったわけじゃないんだよな。本当は双子が良かったとか言ってたし。
「……お前は、どっちなんだ?」
「何が?」
「その、高遠として生きてるのか、エイリとして生きてるのか……」
「僕は僕だよ。何も変わらない。君のことが、ただ好きなだけ。生まれ変わろうと、何があろうと、それだけは変わらない」
何もブレないってことか。
それはそれで羨ましいけどな。俺みたいに迷うこともないし。
まぁ、そりゃそうだよな。だって俺を転生させたのはコイツだし。名前が違うだけで、高遠は高遠のまま俺の弟として生きてきたんだよな。
「俺は、お前に対してどう接すればいいんだよ?」
「どうって? 君は君のままでいいんだよ」
「お前にゲロ甘な兄貴じゃなくなるんだぞ」
「良いんだよ。てゆうか、白瀬は元から僕に甘かったけどね。それに……君に前世の記憶を忘れさせようかって言ったけど、本当は忘れてほしくないんだ。僕はずっと、君のことを待っていたんだから」
エイリが俺の胸にそっと手を置いてきた。
何だろう。一瞬、心臓を掴まれたような気がして背筋が震えた。
「兄としての君も勿論好きだけど、俺は白瀬のことが好きで、死なせたくなくて、魔王になったんだ。いつか君の記憶が戻ることを願っていた」
「……だったら、俺がお前を好きになるように作り変えることも出来たんじゃないのか」
「そんなことしないよ! そんなの君じゃない。どんなに俺に見向きもしなくても、君は君なんだ。君のまま愛してもらわなきゃ意味がないんだ。僕は君を都合のいい人形にしたくはないよ」
「そ、そうか……俺、お前の考えてることが全然分かんねーよ……」
「無理に僕を理解しなくていいよ、兄さん。ありのままの君でいてくれれば、それでいい」
エイリが俺の頬を包み込むように両手で触れた。
そういえば、コイツは昔からこうするのが好きだったな。幼い頃からの癖だからと今までは何とも思わなかったけど、今は少し違和感あるな。
コイツは前世の幼馴染。だけど可愛い弟。二つの感情が混ざって、どう思えばいいのか分からない。
「大好きだよ、兄さん」
「……エ、イリ……いや、高藤?」
「エイリでいいよ。昔も今も、僕はエイリだ」
そうだった。コイツ、前世の名前は高藤英利。名前変わってないじゃんか。なんかズルくないか。
「お前、ズルくないか」
「異世界で俊介って名前は浮くんだもん、仕方ないだろ?」
「それは、そうだけど……」
なんか、思考が追い付かなさ過ぎて考えるのを止めたくなった。もうムリ。走れない。
コイツの言う通り、前世のことを無駄に考えても仕方ないのかもしれないな。
俺は俺として、この世界を生きるしかないんだ。
「じゃあ、エイリ……俺はやっぱりこのまま生きていくよ」
「そう。君がそう選択してくれて良かったよ」
「でも、お前のことは幼馴染としか見れないからな。今は血の繋がった兄弟だし、それ以上でも以下でもないから」
「ふふ。今はそれでいいよ。また君に会えただけで、十分だから」
そう言って、エイリは俺の口にキスしてきた。
何してんだ、コイツ。そう言いたかったけど、ガキの頃もコイツはこんなことしてた。大きくなってからはしなかったのに、なんで今になってそういうことするんだ。
それに俺も、小さい頃そうだったせいか振り払う気も起きなかった。
ヤバい。コイツの思い通りになってる。
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