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第6話 メインクエスト行く前にサブクエ全部やりたくなる
「兄さんは学園に行かなくていいの?」
「俺はお前みたいな秀でたものもないし、コネで入っても苦労するだけだろ」
「何言ってるの、元勇者様が」
「俺はもう勇者の力がないんだろ」
お前がそう言ったんじゃないか。もし何かしらの力があったとしても、義務教育もないこの世界で勉強なんかする気はない。
元の世界で言うところの義務教育、最低限の知識は親から学ぶ。俺も母さんから知識を、父さんから剣術を学んだ。これだけあれば十分だろ。
俺の仕事は毎日山を下りて母さんが作った薬を街に持っていくだけ。あとはまぁ、元勇者だった時の名残なのか、たまに街の人たちの頼まれ事をこなすくらいだ。
勇者だった時のことなんか覚えてなかったけど、何となくお願いされたら断れないんだよな。報酬もあるし、ちょっとした小遣い稼ぎになるからいいんだけどさ。ゲームでもサブクエって先に終わらせておきたいタイプなんだよね。
「兄さんは確かにもう勇者じゃないけど、魂が覚えてる。ほら、兄さんは動物とかに好かれるだろ? 陰陽で言うところの、陽の力が強いからだよ」
「まぁ、そうだな」
「逆に俺は精霊とか陽の力を持つ者には嫌われる」
「あー、なるほど」
そういう名残はあるんだな。納得だ。
コイツが山から降りようとしないのもその力のせいなんだろうな。
理由がどうであれ、俺を助けようとして魔王になって、人との交流が出来なくなったってのは何か悪い気がするな。
結局、親以外だと俺しかコイツの話し相手がいないのか。今までは可愛い弟に寂しい思いをさせまいと甘やかしていたけど、記憶がある今は幼馴染で親友である俺が一緒にいてやらないとならない。
なんか、どう足掻いてもコイツの思惑通りになるのが癪だな。
「ま、兄さんが学園になんか行かないでくれた方が僕は嬉しいけどね」
「なんで」
「二人の時間が増えるから」
「……」
今からでも学校に通うか。もうすぐ二十歳だけど。
あれ。そうか、もうすぐ成人だ。
いや、本当ならもう既に成人の儀は終えてるんだけど。この世界の成人は18歳からだから。
でも、成人式はやりたかったな。地元の友達と集まって同窓会とかしたかった。
「……同窓会とかしたら、お前は女子に囲まれてただろうな」
「嬉しくないけどね」
「お前、合コンとか誘っても来なかったもんな」
「君にも行って欲しくなかったよ」
「……今思えば、合コンに誘った時のお前の顔、メチャクチャ怖かったな」
あの時の俺はコイツが女子が苦手と単純にか合コンが嫌いなんだと思ってそういう顔してるんだと思ってたけど、違ったんだな。
「ねぇ、兄さん」
「なんだよ」
「元の世界に未練があるの?」
「……そりゃあ、無いって言えば嘘になるけど」
「ふぅん……」
「な、なんだよ」
「別に」
エイリは薪を切株の上に置いた。
コイツはこの世界に残りたかったらしいから、元の世界に未練なんて欠片もないんだろうけどさ。
そういえば、普段は気にしてなかったけどコイツは元の世界で親と上手くいってなかったんだよな。俺の親も心配してたけど、小さい頃に親が離婚して母親に引き取られて、そこから色々あったっけ。よく俺ん家に預けられたりしてたし。
それも、戻りたくなかった理由の一つなんだろうか。
この世界での両親が優しいのも、コイツの希望だったのかな。
俺はそんなことを思いながら、斧を振り上げた。
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