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第7話 テーブルに押し倒す展開は嫌いじゃないけど

 薪割りを終えて、俺らは家の中に戻った。  今日は父さんも母さんも街に行ってて夜まで帰ってこない。  そういえば、今朝コイツのテンション高かった気がする。兄さんと二人きりなんて久しぶりだねみたいなこと言ってたな。記憶が戻る前だったから、今日も弟は可愛いなくらいにしか思わなかったけど、今になるとなんか怖くなってきた。  そうか。今、コイツと二人だけなのか。 「…………」 「どうしたの? 兄さん、顔が強張ってるけど」 「いや……別に……」 「何、意識してる? 僕が何かするかもって」 「……まぁ、少し」 「僕が何をすると思ってるの? 急に兄さんのこと襲ったり?」 「やっぱりそういうこと考えてんの?」  俺が一歩後ろに足を退くと、エイリは楽しそうな、いや愉快そうな笑みで俺の方へと近付いてきた。  もう一歩下がろうとしたけど、食卓テーブルにぶつかってしまった。マズい。  エイリとテーブルに挟まれて、逃げ道を失った。 「僕が怖い?」 「今のお前は怖い」 「そうだね。確かに僕は、この瞬間をずっと待っていたよ。アルト兄さんじゃなくて、白瀬にもう一度会いたいと思ってた。だから、このチャンスを逃がすような真似はしたくない」  肩を押されて、俺はテーブルの上に押し倒された。この体制、上半身だけテーブルに乗ってる状態でちょっと腰が痛いんだけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。  どうしよう。エイリの目が、怖い。腕を掴まれてるせいで起き上がれないし。力は俺の方が強いと思ってたのに振り解けない。体制が悪いせいだろうか。 「ああ……ずっとこうしたかった。昔から、君の魂を修復してるときだって、君に触れることをずっと考えていたんだ」 「……そ、そうか。とりあえず、退いてくれないか?」 「嫌だ」 「ですよねー」 「やっと君に触れるんだ。もう我慢なんてしたくない。僕がどれだけ耐えていたと思う? 兄さんが家で無防備な格好をしてるときだって、必死に耐えたんだよ。まぁ脱ぎ捨てた服を何着か貰ったりはしてたけど」 「服が減ってたのはお前のせいか! 風で飛んでいったとか適当なこと言いやがって!」 「別に良いだろ、服くらい。ずっとずっと昔は、君が彼女を作るたびに僕は悔しい思いをしていたんだ。君から初めて彼女とキスをしたとかセックスしたとかって報告を受けるたびに僕は死にたくて仕方なかったよ」  エイリの手が俺の首筋を撫でる。  指先で軽く触れられ、俺はくすぐったくて少しだけ体を震わせた。  仕方ないだろ。俺はお前の気持ちを知らなかったし、男に対して恋愛感情を抱いたことはないんだ。いや、お前の気持ちを否定するつもりはないけどさ。 「悔しくて仕方ないのに、君はどうやって女を抱くのかなって想像ばかりしていた。君に抱かれることを想像しながら自分で慰めて、その度に虚しさで心が引き裂かれそうだったよ」  そういう話を本人の前でしないでくれ。どうリアクションしていいか分からないだろ。友達のそういう話はあまり聞きたくない。 「ねぇ、兄さん。君がどうやって女の子を抱くのか……僕にも教えてよ?」  エイリの手が、俺の服の裾を捲ってきた。  待ってくれ。それ以上は駄目だ。今の俺たちは兄弟なんだぞ。  逃げたいのに、体が動かない。  コイツ、何しやがったんだ。

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