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第13話

「……っ」  ぬるりと温かなリュドラーの口内に陰茎の先端を包まれて、トゥヒムは身を硬くした。リュドラーはクビレに唇をかけて頬をすぼめ、舌で切れ目を舐めながら吸っている。手すりを掴む手は白くなるほど強く握られており、トゥヒムは彼が恥辱に耐えているのだと思った。 (このようなこと、リュドラーは望んでいない。だが……、私は)  トゥヒムは唇を硬く結んで、リュドラーの舌のやわらかさや息遣いにせり上がる声を押し込んだ。苦渋のリュドラーに向けて、快感の息をこぼしてはならないと必死にこらえる。しかし、与えられる刺激から生まれる快楽は、どうしようもなくトゥヒムを昂らせた。  視界からも淫靡な刺激が舞い込んでくる。リュドラーが己の陰茎をしゃぶっているという事実が胸と股間を昂らせるなら、いっそ目を閉じてしまえばいいと、トゥヒムは硬く目をつぶった。 「っ、ふ……」  視覚情報が失われた分、触感が過敏になる。記憶にあるリュドラーのなまめかしい姿が脳裏に浮かび、欲がさらに高まるだけで、なんの抑止力にもならないどころか逆効果だった。  どうすればいいのかと惑うトゥヒムの気配の硬さを、リュドラーは嫌悪からくるものだと思った。 (トゥヒム様は、俺のためにその身を穢そうと決意なされた)  深層の令嬢よりもなお純粋に、大切に城の奥深くで育まれてきた命。それがリュドラーの認識するトゥヒムだった。赤子のトゥヒムと引き合わされ、守るべきものだと教えられたリュドラーにとって、トゥヒムは唯一無二の存在であり続けた。彼が性に未熟であることも知っている。王妃が国王の奔放な女性関係を厭い、トゥヒムにはそれを批判的な態度で教えていたということも。 (トゥヒム様は、このような行為を嫌悪なされておられるはず……)  それなのに、ともに堕ちると覚悟を決めて、相手を務めてくれているのだとリュドラーは考える。 「っ、ん……」  鼻から抜けたトゥヒムの息が、リュドラーの耳に落ちてくる。口内の熱はたぎり、脈打っていた。舌の上に先走りの液を感じたリュドラーは、心理的には嫌悪をしても肉体は反応をしてしまうものだと知っていた。 (嫌々ながらも、トゥヒム様は感じておられる)  つたない自分の舌技で、けなげにも性の道に蜜を通してくれている。  リュドラーの股間が痺れるほどに熱くなった。 (厭うておられるのなら、一刻もはやく開放してさしあげねば)  リュドラーは歯を立てぬよう慎重に頭を動かし、トゥヒムの牡先が喉奥に触れるほど深く呑んだ。女にされたことがあるので、どのようにすればいいのかだいたいはわかっている。舌と上あごで挟み、頬をすぼめて締めつけながら頭を上下させると、口内の陰茎は熱さを増して蜜を垂らし、頭上に落ちるトゥヒムの息も多くなった。 「っ、ふ……、んっ、ぅ」 (リュドラーが私の陰茎をしゃぶっている……。こんなに、激しく)  クラクラしながら、トゥヒムはリュドラーの手を握った。 (トゥヒム様が、俺を気遣ってくれている)  握られた手の意味をそう判じたリュドラーは、ますます激しく頭を動かし、口内でトゥヒムの肉欲を擦った。 「ふっ、んんっ……、んっ、むぅ」  湧き上がる唾液とトゥヒムの欲液が口内にたまってくる。それを飲み下す行為は、強くトゥヒムの肉欲を吸い上げることになった。 「はっ、ぁ……、ふぅ、うっ」  たまらず声を放ったトゥヒムは、そのまま荒い息をリュドラーの髪に落として快楽を追いかける。揺れるリュドラーの頭と刺激がリンクして、トゥヒムは荒々しい情動に支配された。 「んぅっ、んぐ……、ふっ、んむぅう」  グングンと増える欲液を吸いながら、リュドラーは己の肉欲からも蜜をしたたらせた。トゥヒムの傘の張り出しで上あごや頬が擦れるのが心地よく、自分の口内で興奮していくトゥヒムが愛おしくてならない。無垢な主が己の行為で乱れる息に、たまらないほど狂熱を掻き立てられる。 (ああ……、トゥヒム様)  リュドラーは夢中で頭を動かし、トゥヒムを絶頂へと導きながら己の欲液をこぼし続けた。  トゥヒムはそんなリュドラーの行動を、やはり早々に屈辱的行為から解放されたいのだと受け止めて、罪悪感にあぶられながらも欲望をみなぎらせた。  すれ違う心理を見抜くように、サヒサは冷ややかな目でふたりを見つめた。その顔は、わずかな笑みすら浮かべていない。ただひたすらに昂ってゆくふたりを観察している。 「んっ、……っ、ああ」  高く切ない悲鳴を上げて、トゥヒムが大きく腰を震わせた。彼の陰茎の先から子種が噴き出し、深く呑みこんでいたリュドラーの喉を打つ。 「ぐっ、ふ……、はっ、げほっ、げほ」  せき込んだリュドラーは、胸をそらして背後に手を突き肺に酸素を送り込んだ。破かれたシャツから覗く見事な胸筋が強調される。薄く汗をかいている肌にシャツがぴったりと張りついて、腹筋の形をくっきりと浮かび上がらせた。裾からは硬いままの陰茎が顔を出し、その先端からはトロトロと淫液が垂れている。  凝視したトゥヒムの肩に、サヒサが触れる。我に返ったトゥヒムは、リュドラーの姿に欲情を再燃させた己を恥じた。そんなトゥヒムにほほえみかけてから、サヒサは厳しい目で息を整えるリュドラーを見た。 「リュドラー。君はなにを勉強していたんだね」  疑問を浮かべたリュドラーに、サヒサは不機嫌に言葉を叩きつけた。 「象牙の器で、上手に飲む練習をさせただろう。それが、飲むどころか吐き出すとは。……見たまえ。トゥヒムのズボンに君の唾液と精液がかかってしまった」  トゥヒムは真っ赤になり、リュドラーはけげんに片目をすがめた。 「それは……」 「性奴隷が主人の服を汚すなど、あってはならない行為だ。いますぐに舐めて、キレイにしたまえ」 「えっ」  真っ赤になっていたトゥヒムが目を丸くする。 (また、リュドラーが私を舐めるのか)  それは薄暗い喜びとともに、申し訳なさを連れてきた。分裂した感情にとまどいながら、トゥヒムはリュドラーを見る。リュドラーの唇は濡れ光り、頬にも液体が飛び散っていた。それが自分の精液であると気づいて、トゥヒムはゴクリと喉を鳴らす。 (私の淫らなものが、誇り高き騎士であるリュドラーを汚している)  そしてそれを、サヒサは舐めて飲み込めと言っている。 (私の一部が、リュドラーの喉を通る……、のか) (トゥヒム様の子種を、俺の胃の腑に……)  さきほどまでは夢中で、そんなことを考える余裕すらなかった。ただひたすら、トゥヒムを心地よくさせたい。口内に生まれる快楽を追いかけたい。それだけだったリュドラーは、頬についている液体や唇、口内に残る独特の匂いのする液体が、トゥヒムの精液であると理解し、劣情に身を震わせた。 (なぜ俺は興奮をしているんだ) 「さあ。はやく舐めてキレイにしたまえ」  サヒサに促され、リュドラーは姿勢を戻して舌を伸ばし、トゥヒムを舐めた。 (これが、トゥヒム様の味……、なのか)  生涯を賭けて守ると誓った相手のかけらなのだと、リュドラーは確認しながら根元から先端まで、丹念に舐めつくした。  そんなリュドラーの姿を、トゥヒムはじっと見つめている。さきほど目にしたリュドラーの陰茎は、そそり立ったままだった。これから、彼はどんな形で射精をさせられるのだろう。従僕に舐められるのだろうか。それとも――。 「さあ、もういい。リュドラー。離れたまえ」  リュドラーは熱に浮かされたような、ぼんやりとした顔でトゥヒムから離れた。シャツの裾から陰茎の先が見えている。 (リュドラーは、あれからずっとこの状態で置かれている)  さぞかしつらいだろうと、トゥヒムはリュドラーに手を伸ばした。指がリュドラーに触れる前に、サヒサが止める。 「まだ、彼に触れるときではないよ、トゥヒム」  おだやかに言われ、トゥヒムは指を握って目を伏せた。いくら自分が彼に触れたいと望んでも、サヒサが許諾をしなければ叶えられない。そういう立場にいるのだと、トゥヒムは深く息を吸い込み自分に言い聞かせた。 「さて、リュドラー。君はまだまだ、未熟すぎる。――魅せ方を覚えなければならないが、それはまた後にしよう。まあ、歯を立てなかったことだけは、褒めておくとするか。……これから、自分たちは夕食にする。リュドラーの処理をして身支度を整え、食事を与えてから客間へ連れてくるように。衣装の仕立てが終わっているだろうから、試着をさせよう」  従僕に命じたサヒサがふたりに背を向けると、従僕のひとりがトゥヒムを抱き上げ、もうひとりはリュドラーをふたたびイスに座らせた。そして、おもむろにリュドラーの陰茎をしごきはじめる。 「っ、は、あ……、んっ、ぅう」  無造作な行為でも、絶頂の寸前でかわされ続けたリュドラーにとっては、待ち望んでいた愛撫だった。  声を抑える余裕もなく身もだえるリュドラーの姿に、トゥヒムの意識が引き寄せられる。それを視界の端に映しつつ、サヒサは部屋を出た。トゥヒムを抱えた従僕がそれに続き、トゥヒムの視線とリュドラーの嬌声は扉によって遮られた。

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