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第27話
「ぐっ、う……、は、ぁあ」
指や道具とは全く違った質量にリュドラーはうめいた。熱く脈打つものに内壁を擦られ、肺腑からうめきがあふれて止まらない。
「は、ああっ、ああ」
嬌声に耳を打たれたトゥヒムは、夢中になってリュドラーを犯した。
突くたびにリュドラーの喉から蠱惑的な啼き声がほとばしる。我を忘れたトゥヒムは、ガツガツと腰を打ち当てた。絡まる媚肉はトゥヒムの熱をさらに高めて奥へと導き、薄暗い渇望が貪欲にリュドラーを食らえと促してくる。
「ああ、リュドラー」
熱にかすれた息を背中で聞いて、リュドラーの腰は獣欲に震えた。
(トゥヒム様が俺を感じている……、俺で快楽を味わっておられる)
胸が熱くなる。喜びに満たされたリュドラーは、犬が尾を振るがごとく腰を振りたてた。
「あっ、あぁ、はっ、はぁあ、あっ、あ」
貫かれることを知ったリュドラーと、貫くことを知ったトゥヒムが、汗を吹き出しむさぼりあう姿に愉悦を得たサヒサは唇をゆがめた。指先でティティを呼んだサヒサは、細く引き締まった腰を抱き寄せて膝に乗せ、形のいい耳に息を吹きかける。
「見たまえ、ティティ。騎士が主に食われている。――いや。主が騎士に食われている、と言うべきか。なんとも愛らしい光景だとは思わないかね。どちらも夢中で、まるで獣だ。いや、そうだな。もっと彼等の無垢さに添った表現をしたいところだが」
目顔で促され、ティティは口を開いた。
「お菓子をむさぼる幼い者たち……」
「ああ、そうだ。それがいいな。それにしよう。リュドラーは命を賭して守ると決めた愛しい主を。トゥヒムは常に傍にいた、たくましくも頼もしい騎士を。それぞれ心の底からむさぼっている。――隠されていた欲望がつまびらかにされる瞬間というのは、なんともうつくしい光景だ。そう思うだろう? ティティ」
ティティはただ、軽くまつげを伏せただけだった。唇は無感動に閉じられて、その瞳はうつろに輝き、なにも見えていないように思える。
「今日は気分がいい。ティティ、今宵はぞんぶんにおまえをかわいがることにしよう。あのふたりのように」
ティティは顎を上げて、突かれる喜びに啼くリュドラーと、全霊をかけて己のものにしようとするトゥヒムの嬌態を瞳に映した。かすかに唇の端を持ち上げたティティに、サヒサが機嫌よく唇を寄せる。
「ふたりのように、今宵は思うさまむさぼり合うとしよう」
聞こえているはずのティティは微動だにせず、絡み合う主従をながめる。反応がなくともサヒサは気にせず、従僕にワインを申しつけた。
「あっ、はぁあ、あっ、あ、あ」
深く穿たれるリュドラーの声に、トゥヒムがさらに勇躍する。その動きはだんだん激しくなり、やがて雷に打たれたように硬直すると、短く鋭いうめきを発して高まりの開放を迎えた。
「っ、う」
欲液の奔流に奥を打たれたリュドラーもまた、絶頂を迎えた。高い遠吠えを放ち、体を震わせる彼の傍にティティが近づく。残滓が残らぬようリュドラーの陰茎を軽く絞りながら、ティティはトゥヒムの腹を押してリュドラーから離れさせた。
「うっ……、ふ」
小刻みに震えて突っ伏したリュドラーを、トゥヒムは荒く浅い呼吸に胸を上下させながら呆然と見下ろす。
「自分がなにをしたのか、理解できていないという顔だな。トゥヒム」
「……サヒサ」
表情同様に呆けた声を出したトゥヒムの目は、淫猥な色を消して無垢な光を取り戻していた。それが当惑に揺れている様子に、サヒサはジワジワと充足を満面に広げた。凄みのあるサヒサの愉悦に、トゥヒムは自分が取り返しのつかないことをしたのだと気づいた。目を見開いて、ぐったりとしたリュドラーに視線を戻す。
(私は……)
己の肉欲でリュドラーを貫き、わがままに精を注いだ。その事実に色を失うトゥヒムの足元に、ティティがうずくまる。
「後始末を」
「え?」
ティティが口を開き、トゥヒムのやわらかくなった陰茎を含もうとする。飛び退ったトゥヒムはあわてて身支度を整えた。ティティは無表情のまま、サヒサに顔を向けた。
「そう恐れることはない、トゥヒム。君はいま、男の本能ともいうべき支配欲を知り、それを満たした。一人前の男としての段階を踏んだのだ。愚かな母君のせいで未経験のままだった、とうに経験をしておかなければなかったものを、やっと経験できたんだ」
従僕の運んできたワインを手に取ったサヒサは、優雅にトゥヒムにグラスを勧める。困惑しているトゥヒムは、おずおずとそれを受け取った。サヒサはうなずき、もうひとつグラスを従僕から受け取って軽く持ち上げる。
「乾杯するとしよう、トゥヒム。君の未来と、彼のこれからに」
サヒサの視線を追って、トゥヒムは横たわるリュドラーを見た。うっすらと目を開いてはいるが、意識があるようには見えない。あるいは自分とおなじように、どうしていいのかわからなくて、身動きができずにいるのかもしれないとトゥヒムは思う。
「男を受け入れる、という体験を知っているのといないのでは、今後の教育に大いな違いが出るのだよ、トゥヒム。――誰か。あそこでたわむれているうちのひとりか、ティティか、あるいは自分の知り合いの、初物食いが好きな男にさせてもよかったんだがね」
含みのある視線を向けられ、トゥヒムはサヒサに顔を戻した。
「彼の純粋に君を想う気持ちと、そんな彼を心の底から信頼し、大切にしている君の想いをないがしろにするのは気が引けてね。こういう趣向を取らせてもらった」
感謝しろと言わんばかりのサヒサに、トゥヒムはひきつった笑みを向けつつ考える。もしも自分ではなく、別の誰かがリュドラーの純潔を手に入れたと知ったなら、どんな気持ちになるだろう。リュドラーは、どれほどの屈辱を感じるのか。
(リュドラーが、私以外に貫かれて支配される)
考えただけでゾッとする。とすると、ここはサヒサに礼を言わなければならないのか。しかし、そんな気にはなれない。――どうして。
トゥヒムはリュドラーを見た。ティティが薄い毛布をリュドラーにかけている。目は閉じられて、どうやら眠っているようだ。
「はじめての経験に、疲れたようだな」
愉快そうなサヒサを、トゥヒムは鋭い視線で刺した。
「さすがの騎士様も、お疲れのようだな」
愉快そうなサヒサを、トゥヒムは鋭い視線で刺した。
「おや。どうしたのかね」
「リュドラーを性奴隷にすると言ったのは、あなただろう」
「自分がすると言ったのではなく、条件を提示したら彼が呑んだというのが正しいな」
「どちらにしろ、おなじことだ」
「結果としてみれば、そうかもしれないがね」
ワインに口をつけるサヒサに、手に持っているグラスを投げつけたい衝動にかられてトゥヒムは震えた。怒りとも苛立ちともつかない感情がどこから来るものなのか、トゥヒム自身にもわかっていない。サヒサはそれを理解していると言いたげな顔をした。
「抑圧されていたものに気づき、開放されればとまどうのも当然のことだ。なんら恥じることはない。――ああ、さきほどリュドラーを騎士だと言ったことにも怒っているんだったな。それは、性奴隷が体を張って主人を助け、守る存在でもあると言いたかっただけだ。なにも揶揄するために言ったわけではないよ」
反応ができずにいるトゥヒムに、サヒサがワインを飲むよう仕草で示す。
「体を動かした後は、ふたたび頭を働かせるとしよう。さあ、トゥヒム。部屋に戻って勉強の続きだ。リュドラーはこのまま、ゆっくりと休ませてやるとしよう。――ティティ」
うやうやしくティティが頭を下げる。サヒサはワインを飲み干し、先に立って扉に向かった。
「さあ、トゥヒム」
飲む気にはなれなかったが、ワインを一気にあおったトゥヒムは従僕にグラスを渡し、ティティを見た。ちらりと目を上げたティティが唇を舐める。扇情的な表情に腰を震わせたトゥヒムは、彼に渡された紙片の存在を思い出した。
(あれは、なんだったのか)
誰にも悟られずに開かなければならない。トゥヒムは軽くポケットを指先で叩いて、ティティに合図した。ティティは深く頭を下げる。
ティティからリュドラーに視線を移動させてから、トゥヒムはサヒサの後を追って部屋を出た。
残されたティティは肩で息を吐き、手を叩いてたわむれている性奴隷たちの意識を自分に向けた。
「さあ、宴はおしまいだ。それぞれ報酬を受け取って帰るがいい。――リュドラーは、僕の部屋へ」
命じたティティは、リュドラーを抱えた従僕を従えて部屋に戻った。
「後始末は僕がする」
従僕を追い出し、ふたりきりになったティティはほのかな笑みを乗せた唇で、眠るリュドラーの額を撫でた。
「かわいいね。君も、主も。――本当に、かわいくてキレイで、どうしようもなくうらやましいよ」
聞こえぬささやきを耳に吹き込み、ティティはそっとリュドラーに寄り添った。
「君たちを助けてあげるかわりに、僕の望みを叶えてもらう。君の主はきっと同意をしてくれるだろう。そうなれば君も必ず協力をする。――僕たちにとって、すばらしい未来を創ろうじゃないか。ねえ、リュドラー」
リュドラーを抱きしめたティティは、トゥヒムに渡した紙片の効果を思って、クスクスと少女のように笑い続けた。
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