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第11話
(バイト仲間視点)
仲の良かったバイト仲間が留学して一週間。
彼から頼まれていたアパートの引き払いの最後の手続きを終えて、何度も飲み明かした懐かしいアパートを出た。
バイト仲間は、男前な性格でフランクで、みんな嫌がる仕事も笑って引き受ける、そんな男だった。
バイト仲間内では仕事上も人間的にも人気があった彼は、彼が二回生になったころから徐々にシフトが増えていき、バイト歴だけは長い俺と並ぶバイトリーダー的存在になっていった。
その頃から二人シフトがあったときは朝までだらだらと飲み明かす、そんな関係になっていた。
彼から一度だけ聞いたことがある。
親友のことが好きだったこと。
でも、親友と後輩が思いあっているのがわかっていて、それを見るのが嫌でサークルをやめたこと。
なのに、親友に告白して裏切ってしまったこと。
俺にはそれが悪いこととは思わなかったけれ
ど、懺悔する彼に、ただ聞いてあげることしかできなかった。
彼にとっては、それほど大きな傷になっていたのだろう。
それから間もなく、彼が留学すると聞いた。
以前から留学したいようなことは聞いていたが、突然に決まった留学。
驚きながらも、彼の夢の実現に祝福した。
…
「おい」
アパートを出ると、乱暴な物言いで呼び止められた。
振りかえると、綺麗な顔した男が睨み付けるようにこちらを見ていた。
「なんですか?」
「お前、佐藤の部屋から出てきただろ。」
バイト仲間の名前を呼ぶ彼は、バイト仲間の友人か。まあ、知らない人間がもぬけの殻のアパートから出てきたら警戒もするだろう。
「そうですよ。自分は彼のバイト仲間で、彼に最後の精算を頼まれていたので。」
「バイト仲間、、、。あいつは、俺には頼まずにこいつに頼んだのか。」
最初不審者かと思っただろうことを差し引いても、敵意むき出しの失礼な態度に呆れてしまう。
顔だけイケメンで育ったらこうなるのか、と心の中で毒づく。
バイト仲間の友人なら年下か。
年下相手にムキになっても仕方がないから「まあ、そういうことで。」とさっさと退散しようと踵を返そうとすると、肩をガシッとつかまれた。
「佐藤にあんたは釣り合わない。佐藤とはもう関わらないでくれ。」
「はあ?」
「あいつは優しい奴だから言えなかっただろうから。」
「余計なお世話。大体君は何なのさ。俺と佐藤の関係に文句言われる筋合いはないんだけど。」
「俺はあいつの親友だから。」
懐かしむように話す彼は、いつぞや聞いた佐藤の想い人だった人だろう。
印象最悪なのも相まって、以前話に聞いていた人物とはかけ離れているけれど、一方で目の前の男から見た佐藤の印象もまた、実際とはかけ離れているのかもしれない。
親友とは言いながら、お互い、都合のいいようにしか相手が見えていなかったのかもしれない。
「親友ね。そんなこと俺に言う暇があったら彼にメールの一つでも送ったら?」
「いや、、、佐藤はいったん携帯解約するからって、連絡取れないって、、、」
「これ、メールアドレス。」
たしかに携帯は解約したのは事実だが、緊急連絡先用に留学前にPC用のメールアドレスを作って渡されていた。
「カワイイ後輩くんたちの為にいうけど、君たちは多分圧倒的に言葉が足りていないんじゃない?何も言わなくても通じ合うって、理想的だとは思うけど、君たちの場合、俺から見れば通じ合ってないよ。自分の思いだけで突っ走りすぎ。」
「うるさい。何も知らないくせに。」
「じゃあいらないの?メールアドレス。」
「、、、いる。」
「ほら、寛大なお兄さんに感謝しなさい。」
「、、、ありがとうございます。」
俺も、お節介だな。と苦笑する。
目の前の彼はともかく、ひとり留学してしまった彼は間違いなく可愛い後輩だ。
お互いの思いの丈を伝えあった結果、どんな結末になるかはわからないけれど、逃げるように留学しても彼は前を向くことなんてできない。
大事そうにメールアドレスの書かれたメモ帳を持って帰る彼を見送った後、俺はスマホで電話をかけた。
「久しぶり、佐藤。」
『お久しぶりです、竹下さん。そちらの後始末の方お願いしちゃってすみません。助かりました。』
「いいえ〜。一応報告しとくと、アパートの清算は無事済みましたぁ。いくらか返金になってるから通帳に振り込んどくな。日本戻るまで扱わないだろうけど、確認だけよろしく。」
『ありがとうございます。』
「あと、もう一つ。さっき、超超超生意気な自称佐藤の親友と会いました。」
『、、、え?』
「メアド教えてやったから、連絡くるかも。ごめんね、よろしく!」
『えっ、竹下さんっ』
「超生意気なあいつに、思いの丈ぶつけてやれ。そして俺の分までバカヤローって言ってやってくれよ。短時間でしか会ってないけど、あいつはお前が思っているより性格悪いからな。お互い猫かぶんなよ。言葉で殴ってやれ。」
『竹下さん、元ヤン出てきてる』
「ふふっ、彼も命拾いしたよね。綺麗な顔に一生ものの傷がつくところだったよ。」
『まじあいつ何したんすか、、、本当にすみません。』
「まあ、とにかくしっかり話し合うこと。お兄さんからのアドバイス。縁切るのはそれからでもいいんじゃない?」
『、、、はい。』
「それじゃあ、またね。何かあったら連絡してきていいから。」
『ありがとうございます。』
そう言って電話を切った。
そう、実は留学先で契約した電話があるため、手っ取り早く電話することもできるのだが、自称親友の彼にはムカついたので、ちょっとした嫌がらせ。
多分、お兄さんの勘だけど、しっかり話し合えば上手くいくと思うんだ。
頑張れ、後輩たち。
終
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