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第17話
知らなかったのだが、有季の家は俺のうちからとても近いらしい。
タクシーで言うとワンメーターだ。
後日俺の家に来た時に有季はくすくすと笑って言った。
「玄さん、僕のこと妊娠したみたいに手厚くタクシーに送り込むんだもん。家、すぐ近くだから歩いても行けたのにさ」
これおつり。と言って、俺がタクシー代に渡した札と小銭を返して来た。
そんなに近かったのか……。俺は何も知らずに……でも急いで育った恋である。
何だか色々とばたばたしてしまったが、万事はうまくまとまったらしい。
俺の顔をじっと見て、有季が言う。
「あのね、玄さん。僕この前言えなかったことがあるんだけど」
「な、何だろう」
何かまだ聞き漏れたことがあるのだろうか?
俺は有季を見詰めて言葉を待っている。
有季の貝殻みたいに可愛い唇が開く。
「あのね……優しい玄さんもすき。弱ってる玄さんもパパの玄さんも……それからエロい玄さんもすきって言ったでしょ」
「うん」
それを聞くと、胸がきゅんとときめくよ。
それがどうかした……。
「あのね……色々な玄寿さんがいて、頑張ってるの知ってるんだ。だからね」
「うん」
息をすうと吸い込んで、有季は言う。
「玄さんの男の部分は、僕が引き受けたいと思ってるんだ。普段色々我慢してるところ、あるでしょ」
「……」
「我慢してても消えるわけじゃないと思うの。玄さんだってまだ若いし……玄さんの『男』の部分ってあると思うんだ……」
それって何ですか。
つまりエレクトの部分って思っていいですか?
エレクトのことって、思っていいんだよね? そうだよね? 俺のそれを有季で解放していいってことだよね?
一瞬にして俺を煩悩の渦に引き込んだあとで、有季は言う。
「だからね、僕がそこを引き受けたいと思ってるの」
「……」
「僕だけ。他で発散、しないでね……」
最後にそう言って、有季は小首を傾げた。
俺にはその微笑みが、天使のそれに見える。
あー……俺はすごい子と巡り合った。
有季は俺を男に引き戻してくれた。それだけでなく恋愛の色々も思い出させてくれて……。
そうだよね。俺の一部をなくしても我慢しても、それは俺じゃないんだ。煩悩も含めて全部でやっと俺という男なのだ。
「有季、解った。ありがとう」
「玄さん」
俺は自宅で、有季をぎゅっとする。その手触りがたまらなくて、俺はまた股間がもぞもぞとする。放したくない。
「パパー」
「おっと……」
もう一人の天使の声が聞こえる。
「おあずけね」
そっと耳元で囁く有季の声が、天使にも悪魔にも聞こえるし。
パパも俺、男も俺。
そんな俺が今日もエレクトしているのだ。
幸せである。
(『俺の機関銃がエレ〇トしている』おしまい)
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