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【イエローダイヤモンドの溶解点 番外編】mellow yellow moon
「優護、見てよーーすごいよーー気持ち悪いくらいに星あるし、月でかい!」
壱哉はキャンピングカーの屋根の上であぐらをかいて夜空を指差してる。
淡い月明かりに照らされた綺麗な顔。
以前は青白かったが、最近は少し日焼けして健康的になった。
今日は私有地の山の麓にあるキャンプ場に車を停めた。夜になると人工的な灯りも少なく街では見えない細かい星まで綺麗に見える。もちろん月も美しい。
壱哉は、何を見ても、どこに行っても楽しそうだ。
実際初めてのことばかりなんだろう。
幼い頃から大して外に出してももらえず、結局高校1年までしか学校に通わなかった壱哉を、もっともっといろんなところに連れて行って楽しい経験をさせてやりたい。
「肉焼けたぞーー」
バーベキューコンロの上のステーキ肉がいい頃合いだ。格子状に綺麗に焼き目がついて我ながら上手く焼けた。
「食べるーー」
壱哉は屋根からダイレクトにポンと地面に飛び降りてきた。
「大丈夫か?」
トラウマを抱えている壱哉は、今まで高いところから急に降りることをしなかったのに……。
「大丈夫。いつまでもこんなことイヤがってたら、やりたい事何にもできないし! ジェットコースターも乗りたいし、スカイダイビングもしたいし、バンジージャンプもしたい!」
えーーーーおじさん、それは嫌だな。
「もちろん一緒にやるからね!」
俺の拒否った顔を察知して楽しそうに逃げ道を塞ぐ。
お前が楽しいなら何でもつきあうけどさーーバンジーだけはちょっと勘弁だなーー。
焚き火を囲んでバーベキューを楽しむ。空には満点の星と大きな月。空気も美味い。
健康的だな。この生活を始めてから酒もタバコもやめたから尚更だ。
おとーさん気分だが、壱哉が20歳になったら酒は一緒に飲もうと決めている。
綺麗な黄色の月が彼の以前のユーチューバー名のスファレライトみたいだ。取材対象者として初めて会った時に事前にその意味を調べた。その時は男のくせに宝石の名前をつけるなんていけすかない気取った奴だと思ったが、今思うとピッタリな名前だな。
高い屈折率が生み出す輝きは、ダイヤモンドをも凌ぐと言われるレアな蜂蜜色の宝石。しかし硬度が低く脆く傷つきやすいので研磨するのも、装飾品にするのもかなり難しいらしい。
一見美しく、周りを魅了するけれど、脆く、傷つきやすく、実際満身創痍で傷だらけの体の壱哉そのものだ。これ以上大きなクラックが入って壊れてしまわないように、俺はこの美しい宝石を命の限り守ってやると決めた。
「食べないのーー?」
可愛い顔で、むしゃむしゃワイルドに肉を食らってる。昔実家で飼ってたポメラニアンみたいだな。
「可哀想におじさんだから脂を消化できないんだねーー? これあげる」
言うと自分の嫌いなピーマンとニンジンを俺の皿に乗せた。
「なんでも食べないと大きくなれませんよ」
乗せられた野菜をそのまま壱哉の皿に滑らせて戻した。
「モラハラ! モラハラ! オジハラ!」
「お前こそ、オジさん差別! 親父狩りだぞ!」
「親父狩りって何?」
壱哉はキョトンとした顔で聞いてくる。
あーー当然知らないよね。
今のが一番地味に傷ついた。
「動画撮るか?」
「何撮るのーー? 僕が肉食べてるところ? おじさんが胃もたれで、肉食べれないところ?」
俺と壱哉はキャンピングカーで日本中を巡りながらユーチューブ配信をしている。さすが元200万登録者越えのチャンネルを持っていたカリスマユーチューバ【スファレライト】様の威光は素晴らしく、あっという間に人気チャンネルになって今では広告費だけで生活していけている。以前のキラキラの妖精ちゃん感は全く無くなってしまったが、健康的な生活をしている壱哉の様子にエールを送ってくれている視聴者も少なくない。
「そうだな。お前が美味しそうにピーマンを食べている姿を生配信だな」
カメラを設置して嫌そうにピーマンを食べている姿を映すと、壱哉はカメラ目線でニヤリと笑った。飴色の瞳がキラリと光る。
「明日は群馬の猿ケ京で優護が、バンジージャンプしまーす! 楽しみにしててね!」
「おま!」
生配信ではっきり宣言されてしまった! 読めない速さでコメントが次々に流れてくる。
【すごーーい! 楽しみにしてまーす!】
【生で見るよーー】
【心臓止まらないようにねーー】
【ゆうちゃんがんばれーー】
(えーーーー! うそーーーーん。怖すぎるわーーー!)
「僕は温泉入りまーーす! チラ見せがあるかもよ!」
【きゃーーーー!!!!】
【絶対見る!!!!】
【待機しました!】
こっちもすごい勢いでコメントが流れる。お前は温泉入るだけかよ!
「楽しみにしててねーー!!」
画面に向かって壱哉が見事なカリスマスマイルで手を振ると、なんとか配信終了した。
「やってくれたなーー!!」
「あんな苦いもの食べさせるからだよーー!!」
してやったりな顔をしてゲラゲラ笑ってる。まあこんな顔で笑えるようになったんだからいいけどさーー。でもよりによってバンジーかよ!! 考えただけで貧血起こしそう。
「ごめんねーー」
近くによってきた壱哉は、しおらしい表情で額にキスしてきた。可愛い。ほんと気まぐれでころころと表情を変える月みたいだな。
「仕方ない。俺も体を張って視聴回数を稼ぐか!」
壱哉にばかり頼ってはいられない! 生活費を稼ぐために俺もチャンネルに貢献しなければ!
「優護かっこいい!!」
嬉しそうに抱きついてくる。いいよ。お前が笑っていてくれるならなんでもするよ。
二人でもっともっと新しい経験を重ねて行こう。
明日もきっと楽しい1日になる。
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