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【イエローダイヤモンドの溶解点 番外編】最初に投げた小石の行方について……
よく寝てる。
頬をペチペチ叩いても全然反応がない。ちょっと薬入れすぎたかな?
ごめんねーーリハビリに付き合ってもらうね。
ベットに横たわる優護の横に一緒に寝てみる。大丈夫そう。上半身を起こして顔を覗いて見た。こんなに近くにいるなんて不思議。前にテレビで見た時よりちょっとおじさんになったのかな? のっぺり、醤油顔だよね。そのせいか年より全然若くは見えるけど。匂いを嗅いでみるとタバコの匂い。これはちょっとイヤだな。ぴったりと寄り添うと暖かい。やっぱり優護は大丈夫。全然気持ち悪くならない。
『ふざけるなよーー! 誹謗中傷した奴ら! みんなぶっ飛ばしてやる! こうやって報道してるお前らもだ! なんでわかんねーーんだよ!』
芸能リポーターに囲まれてバカみたいに吠えてんの。笑えた。笑えたけど、涙が出た。僕にも気づいてよ。その子よりもずっと酷い目にあったよ。だって殺されかけて、こんなベットの上に置き去りにされて、全然、体は動かないし、テレビの画面のあなたの姿を見ることもできないんだよ。
僕のためにも戦ってよ! 本当の事をみんなに知らせてよ!
『こんなに若くて綺麗なのにねーー』
看護士さんの声がして、涙を拭ってくれた。それ以上は何も言わなかったけど、ニュアンスでわかる。僕はもうずっとこのままなのかもしれない。そしたらどうなっちゃうんだろう…… こんな醜聞きっと父さんも母さんも許さない。全てを隠蔽されて僕は死ぬまでこのままで、あいつらは幸せに生きていくんだろうか。
絶対にいやだ。どうしても優護に会いたい。本当の事を知って欲しい。死ぬなら、あいつら全員ぶん殴ってから死にたい!
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
あれから僕けっこう頑張ったでしょ? こうして優護に会うことが出来たし、触ることもできる。復讐するのは嫌がるだろうな……阻止されるかも知れない。でもそれは無理だよーー優護にも会いたかったけど、あいつらをぶん殴るのも諦めてないから。
そっとキスをしてみた。
さすがに好きになってはくれないだろうなーー別にいいよ。それでも僕は優護と寝ることに決めてるんだ。
シャツのボタンを外してみる。男の上半身が見えてゾッ……っとした。急に息苦しくなって手を止める。
やっぱ無理かも……でも、もう一回だけキスしたい。体の上に乗ってキスをすると、応えるように伸びてきた腕が背中に回ってきて、そのまま抱き寄せられてキスされた。こんなキスした事ない。優しくて激しい大人のキスだ。唇を離すと優護が目を開けてこちらを見ていた。目が覚めたのかな?
にっこり笑うとまた、ぎゅ…っと抱きしめてきた。多分夢だと思ってるんだ。
本物だ。ずっと会いたいと思っていた優護だ。
協力してよ! 優護とだけしたことにしたいよ。
出てきた涙を優護の手が拭ってくれた。
抱きしめられても、もう気持ち悪くない。優護の体温と匂いで安心する。聴こえる心臓の音が心地良い。生きてて良かった。生きてたからこうやって会うことが出来た!
優護の胸の中で涙が流れて止まらなかった。
守られているみたいだ。ここにいれば大丈夫。誰も僕を傷つけたりしない。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「あのさーー最初にもらったUSBに入ってた映像なんだけど」
移動中の車の中で優護が聞いてきた。
今日は千葉に向かっている。昼には房総で新鮮な海鮮が食べれる予定。甘エビだらけ丼が食べたい!
「やっぱ、あれ本物?」
「どうかなーー?」
「教えてくれよーー」
「なんで知りたいの?」
「だって勿体無いだろーー壱哉との初めての時の記憶がないないなんてさーー」
「秘密ーー」
「なんだよ!」
結局あの時は、出来なかったんだよねーーだからあの後、優護を真っ裸にして全身スキャンして合成動画を作った。ほんとのこと知ったらほんとにやってたって言うより恥ずかしいだろうな。
「優護すっごい優しかったよ」
「やっぱやってんのか!? 全然記憶ないし、なんか他の男とやってるみたいでムカつく!」
「優護としかした事ないよ」
運転の邪魔をしないようにそっと後ろから抱きついた。
「壱哉……」
優護は僕の過去を全部知っている。だからこれは嘘だってバレバレなんだけど……。
「そうだな。俺だけが壱哉に愛されちゃってんだもんなーー」
僕が望んでしたのは優護だけ。優護もわかってくれている。だから嘘じゃない。
「生しらす丼食べる前にラブホ寄ってく?」
耳元で囁くと一瞬、車が蛇行した。
「危ないだろう! 大人をからかうんじゃない!」
おじさんのくせに、真っ赤になってる。可愛い。
「一回あのお城みたいな建物に入って見たかったんだよねーー」
「……そのうちな……」
ぼそっと小さい声がした。楽しい。優護といると、毎日が刺激的で楽しい体験ばかりだ。
「約束だよーー!! そうだ! ラブホ潜入動画もいいかもーー」
「ファンが減るぞ!」
「そんな軟弱なファンならいらないよーー大丈夫。僕がエンタメに仕上げてみせる!」
「はいはい」
呆れたような優護の声。大丈夫。今度は僕が優護を守ってあげる。結構ぼんやり生きてるからなーー僕がちゃんとしとかないと! すでに老後の資金はばっちりだから安心して!
「なんかお前黒いこと。考えてないか?」
「ないない。甘エビ楽しみーー」
車の窓を開けると、潮の香りがしてきた。今日も楽しい1日になりそう。
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