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Just the beginning ⑥

 尚人が入隊した年から数年、3人はあっさりと退職した。と言うか、章良が退職を決めると、俺も俺もと2人が勝手についてきただけなのだが。 『なあ、一緒に住まね?』  同居を言い出したのは涼だった。 『仕事も一緒にやるんだしさぁ、同居したほうが楽じゃん?』  それから章良は、涼と尚人と一緒に都内のまあまあ洒落たマンションに移って、共暮らしをしながらBGの仕事をしている。 「まあ、章良くんもその内、章良くん好みの若い男から依頼くんじゃね?」 「どうだか……」 「でも別に困ってないよな? 相手見つけんの」 「そうだけど……。折角だったら自分好みの奴、警護したいよな」  今、いないし。そう呟くと、キッチンへと朝食の準備に向かっていた尚人が振り向いた。 「あれ? 章良くん、また別れたの?」 「ん……続かんかった」 「章良くんから?」 「いや、向こうから」 「え?? また??」  章良は男が恋愛対象の同性愛者だ。それを自覚したのはもう随分前の話で、実を言えば女と関係を持ったことはない。持つ機会もないほど早く男に目覚めたのだ。しかも立場的にはウケとかネコとか言われる、セックスでは女と同じ受ける側なので30手前になった今でも『童貞』なわけだけど。童貞を捨てたい願望もないし、それに関してはそれほど気にはしていなかった。 「章良くんって、セックス下手?」 「んなことないわっ! 普通だっつーの!! ……たぶん。てか、俺受けだし」 「マグロ?」 「マグロじゃねぇって。めちゃくちゃ活きいいからな、俺」 「いや、でも、いっつも早くない? 別れるの。大体、1回か2回ヤって終わんじゃん」 「そうなんだよな……。何でだろうな? うまくいってると思ってても、急に言われんだよな」 「そう思ってんのは章良くんだけじゃねぇの? なんかあんじゃない? セックスに原因が」  その涼の言葉に少なからずショックを受ける。自分のセックスが下手かもなんて考えたことがなかった。 「俺……下手なのか?」 「いや、知らねぇけど。ていうか……俺にはよくわかんねぇし。男同士のことは」 「いや、男同士とか関係ないって、涼。ノンケだろうと、相手との相性は大事だろ? 体も性格も」 「まあ……。体の相性ってとこはわかるけど。俺は、特定の奴、作んねぇから、性格のこととかはわかんねぇわ、やっぱ」  俺は体が合えばそれでいいし。そう続けて、涼が大きな欠伸をした。 「涼って、なんで彼女作んないの?」 「面倒くさいじゃん」 「……それって、イケメンだから言えるセリフだよな」  この目の前の、彫りが深くて整った顔の男は、幸せな結婚、とか、温かな家庭、とか言うモノに全く興味がないらしい。気が向いたときに、クラブなどの出会いの場に出向いていって、一夜限りの関係を楽しんで帰ってくる。最初から割り切った女としか関係を持たない。恋愛感情を匂わす女は必ず断る。  涼は昔から、相手と恋愛関係に発展することを頑なに嫌がった。それは涼の家庭環境も影響しているのかもしれないな、と章良は思った。

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