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Just the beginning ⑰ ★

 それにしても、黒埼たちの狙いはなんなのか。黒埼がアメリカで警護対象者なのは事実だとしても、これだけ腕が立つなら日本での警護なんて必要ないだろう。それなのに、わざわざ章良を指名して、警護に付かせた理由はなんだろう。今、こうして章良自身が襲われていることを考えたら。  やっぱり、俺が狙いなのか?  章良の知らぬところで恨みを買ったのかもしれない。BG業界にいると、逆恨みだとかで狙われることはたまにあるからだ。しかし、全く身に覚えがない。海外での仕事もあるにはあるが、今までの警護で黒埼たちとの接点など全く思い浮かばない。  そうは言っても、逆恨み等はたいてい、思ってもないところから火の粉が降りかかることが多いし。  もし黒埼の狙いが章良なら、黒埼の、あの章良をどことなく知っているかのような態度も、あらかじめ自分の経歴を細かく調べていたことも納得がいく。  ただ、1つ説明がつかないのは。黒埼の章良に対する、あからさまなセクハラだ。恨みのある相手にあんなに馴れ馴れしくするものだろうか?  いや、もしかしたら。あれも嫌がらせの一種かもしれない。もしくは、友好的にしておいて章良の隙をつく作戦とか。  ああっ、くそっ。わけわからんっ。  一体、章良を狙う理由はなんなのか。  ぐちゃぐちゃと色々考えている内に、下着を1枚残して裸になった。 「パンツも脱いで」 「…………」  渋々、下着に手をかけて、下に滑らせる。 「両手、後ろ」  そう言われて、章良は苦笑いする。反撃はかなり厳しいかもしれない。章良が両手を後ろへ回すと、黒崎が手に持っていたらしい手錠で章良の両手を繋げた。その後、ずっと後頭部へと突きつけられていた銃が離れたのを感じた。  黒崎が後ろに下がったのがわかった。章良の体を隅々までゆっくりと這う視線を痛いぐらいに感じた。何もしない、なんてもちろん信じていない。裸にしたのはこちらに隠し持った武器がないかどうかの確認だろう。問題はこれからどうされるのか。自分に恨みがあるのなら。痛めつけられるのか。それともひと思いに殺されるのか。  黒崎が近づいてくる。来たっ、と思った瞬間。黒崎の冷たい手が優しく章良の背中に触れて、思わずピクリと体が震えた。章良の背中にある大きな傷を指先でそっと撫でている。思いもよらない黒埼の動きに、動揺する。黒埼の意図が読めない。 「……大きいな」 「……昔の傷だけどな。俺も覚えてないくらい前の」  動揺を隠しながら、黒埼に答える。 「そうか……」  黒崎はしばらくその傷を興味ありげになぞっていたが、小さくボソッと呟いた。 「エロい」 「……は?」 「この背中の傷が俺を興奮させる」 「…………」 「裸で手錠はめられて、背中に傷があって、お尻がプリンってなってて、それだけでイきそう」 「…………」  変態。この二文字が章良の頭を駆け巡る。俺、痛めつけられるより、もっとヤバいことされるんじゃ……。章良の頭の中で警鐘が鳴り響く。常識の範囲ではない、何かもの凄いやり方で犯されるのではないか。章良は、命の危機よりも、自分の貞操の危機に心からぞっとした。

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