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Don't believe in never ④

「「おかえり」」  リビングに入ると、尚人と涼が同時に声をかけてきた。尚人はソファの上にだらしなく寝転んでテレビを観ており、涼はダイニングテーブルの上で壊れた目覚まし時計をせっせと分解し、修理していた。  涼には機械いじりの趣味があり、家の中で何か故障すると、複雑すぎない電化系統の製品ならばこうして自分で直してしまう。作業をしながら涼が尋ねてきた。 「晃良くん、男と会ってたんだって?」 「まあな」 「どうだった? うまくいきそう?」 「ん、明日の夜、また会うことになった」 「そうなんだ。そしたら、明日、久しぶりにヤれるじゃん」 「涼……お前、そいういう言い方やめろって言ってんだろ。俺のは遊びじゃないからな」 「だけどいつも展開早いじゃん。晃良くんだって最近してねぇから溜まってんじゃないの? ヤれるチャンスがあったらヤりたいっしょ?」 「そりゃまあ……そうだけど」  そこで、尚人がだらしない格好のまま口を挟んできた。 「それだったら、あの黒埼さんとでもいいじゃん」 「……なんでそこであいつが出てくんだよ」 「だって、てっとり早いじゃん。向こうはヤる気満々なんだから」 「俺は満々じゃない」 「だけど、晃良くんもちょっとはいいなって思ってんでしょ? おっさんとヤるよりいいじゃん」 「……おっさんとの方がマシ」 「え~、嘘だ~。晃良くん、ほんと嘘付くの下手だよね」 「とにかく、お遊びは嫌だって言ってるだろ。ヤるんだったら、ちゃんとけじめ付けてからヤりたいの、俺は!」 「前から思ってたけどさぁ、晃良くんって、どっかの箱入り娘みたいなこと言うよな」 「貞操観念があるって言ってくれね?」 「好きな人としかヤりません、って30手前の男が言う?」 「30手前の男だってそんなのいっぱいいるだろ。てか、それが普通だろ。道徳観とか倫理観として」  涼と尚人がおかしいんだよ、と晃良はブツブツ言いながら自室へ向かうと、風呂に入る準備をしてそのまま浴室へと向かった。  ゆっくりと浴槽につかりながら、1日を振り返る。あの消防士の男に何も不満はない。もの凄いときめきもないが、情は沸いてきている。もし明日そういう流れになっても、それはそれでいいのでは、と思う。そのまま付き合うことになるだろうし。  そしたら、久しぶりに準備しといた方がいいか?  明日は行く前にシャワーを浴びよう、と思いながら、晃良は勢い良く浴槽から立ち上がった。

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