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Going out with you ①
ある11月の爽やかな平日。仕事が休みだった晃良は、午前中をのんびりと過ごした後、軽くトレーニングをし、夕方になってふと思い立って自室でPCの前に座った。そしてそのままかれこれ1時間近くじっとしていた。
右手にはマウスを握ったまま。睨むようにPCの画面を見続ける。せっかく煎れたコーヒーも、口をつけぬまますっかり冷め切ってしまっていた。が。晃良はそんなことを気にする余裕もなく、するか否かの選択に迷い続けていた。
「何してんの?」
「うわぁあああっ!!」
突然、背後から声をかけられて、全く無防備だった晃良は叫び声を上げた。咄嗟 にマウスをクリックして画面を閉じる。慌てて振り返ると、怪訝な顔をした涼が立っていた。
「ちょっ、涼! びっくりすんだろっ」
「いや、俺、何回もノックしたし。応答ないから、どうしたのかと思ってドア開けたんだけど」
そこで微妙な沈黙が2人の間に広がった。晃良は探るように涼を見ると口を開いた。
「……見た?」
「見た」
ニヤリと涼が笑った。瞬間記憶能力のある涼には愚問だったようだ。
「『黒埼へ 今度会って話しませんか? 時間があるときにまた連絡下さい。 乾』」
「読まんでいいっ!」
「晃良くん、とうとう黒埼くんに抱かれる気になった?」
「違うって」
「そんなかしこまった文章打っちゃって。まあ、晃良くんはいつもそんな硬い感じだけど。自分から連絡取るなんてどうかしたの?」
「いや……話すと長いんだけどな」
あんなに毛嫌いしている黒埼に晃良から連絡を取る気になったのは、別に黒埼に心を完全に許したわけでも、抱かれたくなったわけでもない。
ふと、2ヶ月程前ラブホテルで見た黒埼の顔が浮かぶ。
『なんで……覚えてないんだよ』
あの黒埼の悲しそうな顔。思い出せなくても仕方ないと半ば諦めていた晃良とは対照的に、過去の記憶に依存して生きる黒埼の本当の気持ちに触れた気がした。
あのとき、約束した。思い出す努力をすると。だから。できる限りのことはしてやりたいと思った。
しかし、いざ思い出そうとしてもそんな簡単にいくはずもない。何か方法はないものかと思っていた矢先、突如強制的に開かれたハロウィンパーティー(小話ハロウィン編参照)で、黒埼の手作りクッキーを食べた晃良は、ほんの少しだが過去の記憶を取り戻すことができた。
少年の黒埼が、同じようにクッキーを食べる晃良を見て微笑む姿。声。あのとき、晃良は本当に嬉しかった。少しでも思い出せたことに。
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