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小話(ハロウィン編) クッキー・センセーション ⑨

「黒埼くん、寝落ちしたな」 「酒呑むピッチ速かったしな」 「なんか、はしゃいでたもんね、ガッちゃん」 「嬉しいことがあったんだろうね」  そう言って、尚人がニヤニヤして晃良を見た。 「なんだよ、尚人」 「クッキー、全部食べてあげたんだって? 晃良くん」 「まあ……」 「アッキー、根性あるよねぇ、あのガッちゃんのクッキー全部食べるなんて」 「ジュン、知ってたのか? あいつのクッキーがまず……いや、独特な味すんの」 「うん。何回も食べさせられたから。試食係として。久しぶりに作るからって、凄く練習してたよ。一向に上達しなかったけど」  でも愛はいーっぱい詰まってたと思うよ。とニコニコしながら有栖が言った。尚人が続けて口を開いた。 「晃良くん、ベッド運んであげたら?」 「なんで俺が」 「だって、晃良くんの黒埼くんじゃん」 「おい。いつから俺の黒埼になったんだ」 「そんなの最初からじゃん。黒埼くんは晃良くんに惚れてんのだし、晃良くんから離れないんだから、晃良くんの所有物みたいなもんでしょ」 「……それ、どういう理屈?」 「まあ、とにかく。このままにしといて風邪引かれても困るでしょ? 滞在伸びるよ」 「それは無理」  晃良は急いで黒埼をおぶると、晃良の寝室へと運んだ。そこでふと、なんの抵抗もなく自室へと黒埼を運ぶ自分に、やっぱり黒埼に慣れてきてんじゃんっ、とショックを受けながらも黒埼をそっとベッドへと寝かせる。  掛け布団をかけてやりながら、黒埼の子供みたいな邪気のない寝顔を見る。  寝顔だけは、可愛いいんだけどな。  晃良は黒埼を起こさないようにそっとベッドから離れると部屋を出ていこうとした。その時。 「……アキ」  急に名前を呼ばれて驚いて振り返る。しかし、黒埼は目を(つむ)ったまま相変わらず寝息を立てていた。  なんだ。寝言か。  暫く様子を見ていると。黒埼がまた寝言を呟いた。 「……おいしい?」  どうやら夢の中でも晃良はクッキーを食べさせられているらしい。晃良はなんだかおかしくなって、その寝言に応えてみる。 「めちゃくちゃ、まずかった」 「……ええ~、嘘だ~、アキ、いつもおいしい言うじゃん……」  目を(つむ)りながらも悲しそうな声で抗議する黒埼がちょっと可哀想になって、晃良は謝った。 「ごめん。冗談。凄え、うまかった」 「……ほんと~? じゃあ、よかったわぁ」 今度は嬉しそうに微笑みながら黒埼が呟いた。黒埼を寝かせてやろうと、そのまま部屋を出ていこうとしたが、またもや黒埼に呼び止められた。 「アキ……」 「なに?」 「……ありがと……」 「……なにが?」 「……いつも全部食べてくれてありがと……」 その言葉に晃良は一瞬きょとんとしたが、すぐに全てを理解した。そうか。昔の俺も、まずいクッキーをうまいうまい言って、全部食べてたんだな。 「おやすみ」 ふっと笑って黒埼に一言(ささや)くと、今度こそ部屋を後にした。 「おやすみぃ、アキ」 むにゅむにゅと挨拶を返す黒埼の声を背中に受けながら。 【小話 クッキー・センセーション 完】

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