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Going out with you ③
涼はそう言うが。そんな晃良が思い出したらトラウマにでもなりかねないような過去があるのなら、黒埼にとってもそれは喜ばしい記憶ではないのではなかろうか。それを黒埼があんな必死になって晃良に思い出させようとするだろうか。
もっと別の、黒埼にとって大事な何かがあるからこそ、その記憶にこだわっているのではないだろうか。
考え込んでしまった晃良に、涼が気を遣うように口を開いた。
「まあ、あの人、うさんくさいけど悪い奴じゃないと思うし。ただ、晃良くんに惚れてるから付きまとってるだけだろうし。そこまで深く考えなくてもいいかもな」
「ん……」
自分はただ、記憶を取り戻したかっただけだった。黒埼のために。変な情が生まれてしまって、もう他人事には思えなくなってしまった。それだけ。
「で、どうすんの? 晃良くん」
「…………」
ここでうだうだ悩んでいてもしょうがない。自分が努力しなければ、きっとこのまま記憶は戻らないままだろう。この件があるからこそ、黒埼に同情ともとれる気持ちが生まれてしまったわけで。これさえ解決すれば、もう少し黒埼と対等に向き合える(戦える)ようになるかもしれない。今はこれが弱みになって、どうしても黒埼に甘くしてしまう自分が否めなかった。
覚悟を決めた。マウスを再び掴むと、ええいっ、と気合いと共に送信ボタンを勢いよく押した。
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