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Touched on the past ①

「うわ、めちゃくちゃいいじゃん、ここ」 「でしょ? せっかくだから奮発していいのにしてみた」 「すげーじゃん、尚人っ。お前の能力が役に立ったな」 「いや、別に能力使わなくても予約ぐらいできるから」 「洒落(しゃれ)てんなぁ。この高級旅館」  自分たちの予想を遙かに超えた、高級感漂う旅館の玄関を前にして、晃良、尚人、涼の3人は、興奮を隠せない様子で立っていた。  どうしてここに立っているかというと。遡ること4ヶ月前。晃良の人生には想定外だったストーカー変態男の黒埼が現れ、行く予定になっていた3人の休暇旅行が台無しにされてしまったのだ。12月に入ってようやく休暇を合わせることができたので、その仕切り直しにと少し豪華な2泊3日の温泉旅行へと繰り出したのだった。  晃良の愛車を交代で運転しながら、東京都から数時間で行ける有名温泉街へ向かった。晃良たちは命の危険もあるBGというまあまあ過酷な仕事に就いていたので、そこそこの収入はある。お互い独身で自分以外に使う金もなく、特に晃良は高額な趣味もなかったので、貯金額は上がる一方だった。  そんなわけで、これまでもたまにまとまった休暇が取れる時は奮発して豪華な旅を3人で楽しんだりしていた。 「よし、入るか」  期待いっぱいに旅館に足を踏み入れる。この辺りは、他にもホテルや旅館が建ち並ぶ、四六時中騒がしい温泉街の一角だったが、旅館に一歩入るとそこは、周りの喧噪(けんそう)喧噪とは完全に隔離された別世界だった。うっそうとした木々で旅館全体が囲まれて、外は全く見えない。その木々が、外界からの音を遮断する役目もしており、とても静かだ。もともと客室数も少ない旅館だったせいか、案内された部屋にいく間に他の宿泊客と鉢合わせすることもなかった。  こういうところは本来、プライバシー重視の芸能人や大企業のお偉いさんたちのためにある場所なのだろうな、と思う。情報通の尚人だからこそ予約できた代物なのだ。  予約した部屋は、露天風呂付の和洋室のスイートルームだった。一歩入ってすぐ、これは違う意味でなかなか趣のある部屋だと気づいた。 「なんか……凄いけど、ここに男3人なのも変な感じだよな」 「俺もそう思って、なるべくいやらしい感じじゃない部屋を選んだんだけどさ」 「なにそれ、尚人。他の部屋、エロいの?」 「エロいっていうか、もっとベッドがピタってなってて、ランプとかも抑えた感じの灯りでさぁ、いかにもエッチするでしょ? みたいな感じだったから。寝室も丸見えなのに変な囲いみたいなので仕切られてて」 「それよく分かんねぇな……」 「うん、まあ上手く説明できなんだけど、雰囲気がカップル仕様だった」 「ここも結構なもんじゃね?」 「でも、ここは仕切られてないじゃん。オープンな感じでシンプルだし。畳なのも昭和っぽくていいし」 「でもさぁ、畳でヤる方がエロくね?」  にやついた顔で涼が言った。 「最近、畳でヤることなんて滅多にないし。逆にこういう方がいつもと違うし燃えるよな?」 「涼はこういうのに燃えんのか」 「結構好き」 「ああ、もう2人ともさぁ! せっかく高級感溢(あふ)れるところに来たんだから、下世話な話やめてよ。ちょっと温泉街散歩にでも行かない?」 「行く」

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