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Touched on the past ②
尚人に促され、3人は温泉街へと繰り出した。昔ながらの建物とホテルなどの近代施設が混在する温泉街をぶらぶらと歩く。土産屋を覗いたり、ご当地物のスイーツなどを満喫したり、のんびりと楽しい時間が過ぎていった。
その間、ふと気づいたことがあった。周りの観光客らしき女の子集団が、遠巻きに晃良たちを見ている。疑問に思った瞬間、ああ、そうか、とすぐにその答えが分かった。尚人と涼。タイプの違う男前が2人もいれば、注目もされるであろう。
晃良のその考えを裏付けるように、その後旅館へ帰るまでの間、何組かの女の子集団に声をかけられた。
「相変わらずモテるな、お前ら」
部屋へ戻って、畳の上で寝転がりながら尚人と涼に話しかけた。
「そう?」
「そう。もの凄い求められてたな、ワンナイトを」
「そういう晃良くんだって声かけられてたじゃん」
「はあ?? あれはそんな可愛いもんじゃねぇって! 絡まれただけだろ、酔っ払いの男どもに。昼から酔っ払って、アホかっちゅーの」
「だけど、結構若くてイケメン集団だったじゃん。大学生ぐらいかな?」
「あのなぁ……。そりゃ、俺も凄ぇご無沙汰だし、チャンスがあればって思うよ? だけど、あんないっぺんに相手できねぇし、昼から酒ってのが爽やかじゃないし。俺にも選ぶ権利はあるだろ」
「え?? 晃良くん、懲りずにまだ他でヤろうとしてたの?? 黒埼くんに阻止されるに決まってんじゃん」
そこで、聞きたくもなかった名前が尚人の口から出て、晃良は不機嫌に眉を潜めた。
「……あいつの名前出すのやめてくれる? せっかくの旅行に水差されるし」
「晃良くん、まだ怒ってんの? 風呂の件」
「当たり前だろ!! プライバシーの侵害だし、あれ」
「まあ、そうだよなぁ。色んなもの見られてたわけだし」
「……涼と尚人だって見られてたぞ、きっと」
「俺と涼ちゃんとこは飛ばされてるでしょ? それに、俺、風呂では抜いてないし」
「俺もしてない」
「……そりゃ、お前らは他で出してるからだろ」
「もう晃良くん、降参したら? 大人しく黒埼くんに抱かれたらいいじゃん。そしたら、自分で処理しなくてよくなるよ」
「ぜぇっっったい、嫌だっ!! そんな、性欲処理のためにあいつに体売りたくないっ!!」
「だったら、情も持ったらいいじゃん」
「……そんな持とうとして持てるもんじゃねぇだろ」
「だけど、晃良くん、もう持ってるでしょ? 少しは」
「は? ……持ってないって」
「あ、ちょっと間が空いたし。やっぱりあるんじゃん」
「ないっ!!」
「あるって。この前、言ってたじゃん。黒埼くんに。甘えた声で。『お前とヤりたくないわけじゃない』って。晃良くん、情がなかったらヤんないんでしょ?」
「いや、あれは、本気じゃないんだって」
「あ、それ、先月のやつ? デートの」
「うん、そう。晃良くんの心の準備ができるまでお預けのやつね」
「うわぁ。それ、聞きたかったなぁ」
「だから、あれは違うんだって」
「そんなこと言って、あの白ブタのぬいぐるみとも寝てんじゃん」
「いや、それは……せっかくもらったし、捨てるのも申し訳ないし……」
もごもごと言い訳をする晃良を無視して尚人と涼が会話を続ける。
「大体、あの風呂ん時の電話だって痴話喧嘩みたいなもんだったし」
「そうそう。端から聞いてたら、ただのカップルの会話みたいだったよね」
「…………」
無言で2人を睨み付ける。せっかく忘れていたのに。晃良の記憶にはっきりと蘇る、あの1週間前の記憶。
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