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Touched on the past ⑥
「おい。お前、どうやって知った」
「何が?」
「俺らがここに来るってなんで知ってんだよ」
「え? それは、アキちゃんへのラブパワー的な?」
「殺すぞ」
「本当にそうなんだって。アキちゃんに会いたい気持ちがこう、奇跡を起こしたっていうか、ピピッと知らせてくれたっていうか」
「そうそう、アキちゃんボイスがね」
「ジュン。言わんでいいやつ、それ」
「あ、そうだった? ごめんね、ガッちゃん」
「アキちゃん……ボイス……?」
「それより、アキちゃんも一緒に風呂入ろ」
晃良の言葉を遮るように黒埼が言った。
「お前とは入らん」
「入る」
「入らん」
「入る」
「ぜっったい入らん」
「まあまあ、2人とも。晃良くんもそんな最初から敵意むき出しにしなくても。来ちゃったのはしょーがないし。とりあえず一緒に飲まない?」
「尚人お前……。なんか凄ぇ物分かりよくないか?」
「そんなことないって。せっかくの休暇が台無しになるのが嫌なだけだし。そしたら有栖くんも黒埼くんも出てきたら?」
「うん。ありがとう、久間くん」
にこにこと有栖が尚人に向けてお礼を言った。尚人がそれに応えるように爽やか笑顔を返す。
結局、尚人が間を取り持つことによって、5人で宴会をすることになった。もちろん、雰囲気のある高級旅館なので、騒ぎすぎないように気をつける。黒埼は晃良の隣に座りたがったが、晃良が頑なに拒否をし、有栖を間に挟む形で座ることになった。晃良は終始黒埼を無視し続け、以前の自宅での飲み会のように、半分やけ酒に近い酒を飲んだ。
「あれ、もうこんな時間」
尚人が携帯で時刻を確かめながら言った。
「何時?」
「もう2時」
「え?? もう??」
「そろそろ寝ようか。明日、観光も行きたいし」
そんな会話を聞きながら晃良はふと疑問に思って、有栖に尋ねる。
「なあ。ここ、4人までしか泊まれないけど。ジュンたちどうすんの?」
「ああ、大丈夫。別の部屋、取ってあるから」
「そうなんだ?」
「うん。だけど多分、ガッちゃんは晃良くんとそっちに泊まりたいんじゃないかな」
「……は?」
その有栖の言葉に引っかかり、黒埼の方に顔を向けると。ニヤリと笑った黒埼と目が合った。
「いやいや、なんでそうなんだよ」
「いいじゃん、アキちゃん。どうせ2:3に別れなきゃなんないし? 前のこともあるし、久間くんはアキちゃんと寝たくないだろうし。酉井くんも状況考えたらここは俺とアキちゃんだと思ってんじゃない?」
救いを求める目で涼を見る。しかし涼は、晃良くん、専属ボディーガードになりたくなかったら諦めな、という半ば同情した目で晃良を見返した。晃良はそれでもなんとか抵抗する。
「そしたら、1:4でもよくない? 俺、1人でもいいし」
「えー、でも晃良くん、寂しがり屋だから泊まる時は1人じゃ嫌だよね?」
「…………」
全くフォローにもなにもなっていない尚人の言葉に、晃良は目を細めて尚人を睨んだ。
「まあ、アキちゃん。夜も遅いし。ここでもめるとみんなに迷惑だしさ」
もう、堪忍したら?
そう言って、口角上げて笑う黒埼を、こいつが寝ている間に絶対どついてやるっと晃良は心に決めたのだった。
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