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Touched on the past ⑬

 応接室のような所へ連れていかれ、すぐに呼んできますね、と老人警備員は去っていった。5分ほど待たされた後、ノックの音が聞こえて年配の女性が1人入ってきた。歳は50代ぐらいで、エプロンを付けた優しそうな印象の人だった。  失礼します、と部屋に入って晃良を見た途端、驚きと嬉しさの入り交じったような顔で声をかけてきた。 「まあ……もしかして、アキちゃん?」 「え……」  突然出てきた自分の愛称に驚きつつも、返事を返す。 「はい。晃良です。乾 晃良 と申します」 「やっぱりっ。アキちゃんなのね。うわぁ、久しぶりねぇ」  そう言ってその女性は嬉しそうに走り寄ってきて、晃良の手を取った。 「大きくなったわねぇ。あの時は、本当に女の子みたいな子だったけど。あ、だけど、よく見るとまだ面影が残ってるわね。可愛らしいのはそのままだわ」 「はあ……あの……俺……まだ記憶が戻ってないんで……」 「あ……そうか……そうだったわね」  その女性はちょっと気まずそうに笑って、晃良の手を離した。晃良の座っている反対のソファへと腰かける。そのタイミングで、別の職員と思われる女性がお茶を運んできてくれた。礼を言って一口啜る。その様子をじっと見ていた女性が口を開いた。 「記憶……まだ戻ってないのね」 「はい。それもあって、今日来たんです。何か思い出すきっかけみたいなものがあればいいなって」 「そう……」 「あの……分かる範囲でいいんで、何か俺に関して知ってることがあったら、教えて頂けないでしょうか?」 「そりゃいいけど……。私が知ってることなんてそんな大したことじゃないわよ」 「何でもいいんです。お願いします」 「えーっと、そうねぇ。アキちゃんは、何歳だったかなぁ。まだ2歳とかそんな小さい頃にご両親が事故で亡くなられてね。それで施設に来たんだけど。女の子みたいに可愛らしい子だったから、晃良くんじゃなくて、みんなアキちゃん、アキちゃんって呼んでたのは覚えてるわ」 「それは、俺も覚えてるんです。その後行った施設でも、俺がアキって呼ばれてたの聞いたみたいで、そのまましばらくは呼ばれてましたから」 「そうなのね。たぶん、引き継ぎの時にも私たちがアキちゃん言ってたからかもね。新しい施設の職員さんも最初それで覚えたのかも」 「あの……俺、唯一、事故にあった時の記憶はあるんです。夢でよく見るから」 「ああ……。あの、台風の時の事故よね」 「はい。だけど、その前の記憶がすっかりなくなってしまって」 「あの事故のことは、私もよく覚えてるわ。私は30代なりたてで、やっと施設の仕事に自信がついてきた頃だったから、本当にあれはショックだった。自分たちのケアが足りなかったったんじゃないかって。本当にごめんね。守ってあげられなくて」  そう言って、その女性職員は辛そうに晃良に向かって頭を下げた。晃良は慌ててそれを制した。

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