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Touched on the past ⑫

 快適な車の旅は1時間半ほどで終了した。車を停めて以前の記憶を辿りながら施設があった場所へと行ってみると。 「あれ?」  以前の閉鎖されていた施設は取り壊されており、新しく近代的な建物が建っていた。大きなゲートの脇に付いているサインを見ると、特別養護老人ホームと書いてある。 「老人ホームになったんだな」 「ほんとだ。俺も知らなかった」 「黒埼って、ここに来たことあんの?」 「何回か。アキちゃんとの思い出に浸りに」 「はあ……」 「だけど、ここ最近は俺も忙しいのもあって来てなかったから」    2人でしばらくじっとその建物を見ていた。晃良は記憶がないので実感は沸かなかったが、黒埼からしたら、きっと思い出の詰まった施設が跡形もなくなっているのは寂しいものだろう。 「黒埼……大丈夫か?」 「ん? うん、まあ……古い施設だったからな。しょうがないんじゃない?」 「だけど……」 「アキちゃん、慰めようとしてくれてんの? だったらチューしてくれたら、俺、めちゃくちゃ慰められるけど」 「……バーカ」  ちょっとでも同情した自分が馬鹿だった、とさっさと元来た道を歩き出そうとした時。 「あのぉ……」  ゲートの向こう側から声をかけられた。人がいたことに気づかなかった。驚いて振り返ると、そこには警備員らしき老人が立っていた。 「何かご用ですか?」 「え? あ、なんでもないんです。昔、ここに建っていた養護施設出身の者なんですが、ちょっと寄ってみただけなんで」 「ああ、あの養護施設の……。あ、だったら、中に入りませんか? そこの養護施設で働いていた者が一人、今ここで働いてますから」 「え……そうなんですか」 「はい。だから、お客さんたちのこと知ってるかもしれませんし。どうぞどうぞ」  そう言って、老人警備員は素早く門を開けてくれた。 「いや、でも……」 「アキちゃん、行ってきたら?」 「え? だけど、黒埼は?」 「俺はいい。車で待ってるから」 「…………」  迷っている晃良に、黒埼が軽く笑って背中を押した。 「何か思い出すきっかけがあるかもしれないじゃん。 行って損はないんじゃない?」 「……うん」  こうして、晃良だけ中に通してもらい、黒埼は車で晃良を待つこととなった。

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