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Touched on the past ⑪
翌日は快晴だった。朝、早めに旅館を出て、晃良の車に黒埼と乗り込む。
『え?? 黒埼くんと2人きりで??』
事情を話すと、尚人も涼もせっかくの旅行なのにと最初は難色を示したが、黒埼と一緒に失われた記憶について調べたいからと説明すると、一応納得はしてくれた。晃良たちが車を使ってしまうので、尚人たちのためにレンタカーも手配した。
1ヶ月ぶりのデートっ、と嬉しそうにはしゃぐ黒埼を適当に相手をしながら、施設のあった郊外を目指した。彼氏(彼氏ではないけども)が運転するのが鉄則だと思っている黒埼は、今日は免許持ってきたからっ、と半分無理やりに運転手となった。
途中でコンビニに寄り、飲み物や軽食を買う。黒埼は、日本のコンビニが久しぶりだったらしく、目新しいお菓子にうわぁー、だの、おおっ、だの歓声を上げて、結局2人では消化しきれないであろう量のお菓子を購入していた。
「お前、どんだけ買うんだよ」
「だって、どれも美味そうで決められなかったし」
「子供か」
「アキちゃん、食べる? いいよ、袋から好きなの取っても」
「いらね。俺、甘い物、苦手だし」
「え?? そうだった?? 昔は甘い物喜んで食べてたのに。この前だってクッキー食べてじゃん、ハロウィンの時」
「あれは……せっかくだったから」
そう言うと、そうなの?と黒埼が嬉しそうに笑顔を見せた。その子供みたいに喜ぶ笑顔に晃良はなんとなく恥ずかしくなり目を逸らす。そんな中、車は順調な走りを見せていた。
不思議なことに、出会ってと言うべきか、再会してからと言うべきか分からなかったが、黒埼のことがあんなに嫌で、関わりたくもないと思っていたのに、何回か会う内に2人で一緒に過ごしていることになんの違和感もなくなってきていた。それどころか、昨夜の黒埼との情事(最後までしてはないが)も相まってこの黒埼の脳天気さが可愛らしくも思えてくる。
俺、洗脳されてきてないか?
自分は、黒埼に興味もなんにもない。昨晩欲に負けたことで線引きはかなり曖昧になってしまったけど。でも、これは黒埼のために記憶だけでも取り戻してやろうという、そう、人助けみたいなものだ。そこに、特別な感情はない。そう言い聞かせる。
「アキちゃんっ、今、たぬきみたいなのが横切ったっ!!」
「まじかっ。どこどこ??」
「もう過ぎた」
「なんだよもう~、見たかったのに~」
そう。こんな黒埼との何気ない会話が楽しくて、思わず笑い合ってしまったとしても。
ぜーったい、恋愛感情なんか、ないからなっ。
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