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Touched on the past ⑮
「確かに良い影響はあったと思う。氷雅くんもアキちゃんといる時は笑顔で楽しそうだったし。あ、この子もこんな子供みたいに笑えるんだな、って」
あの、事故の時も。そう言って、女性職員は昔の記憶を辿るような表情をして話を続けた。
「たぶん、2人はその前の夜に一緒にいたんだと思うわ。台風の酷かった夜。その次の朝に2人で抜け出して、川に落ちて溺れかけたの」
「そこは……覚えてます」
「そう……あの朝は大騒ぎだった。みんなが起きたら2人の姿が見えなくて、必死になって探して。私たちが2人を見つけた時には、川辺のところに2人とも気を失って倒れてたの。アキちゃんは背中に大きな怪我してて。たぶん、大きな流木とか岩かなにかに思いっきり当たったみたいだったけど、出血が酷くてすぐに救急車で運ばれたの」
「黒埼は……?」
「氷雅くんも運ばれたわ。意識はなかったけど怪我もしてなかったし、大丈夫だった」
「そうですか……」
「2人とも命に別状はなかったし、それは本当にホッとしたけど。どういうわけか、アキちゃんが記憶喪失になってしまって。お医者さんも、溺れた時のショックで記憶が失われたんじゃないかって。何か脳にダメージがあってとかじゃないから、一過性の物で、すぐに思い出すだろうって言われてたんだけど……」
そう言って、女性職員は哀れむような顔で晃良を見た。
「まだ、記憶戻ってなかったのよね」
「はい……」
少しの間、沈黙が流れた。晃良は、前から疑問に思っていたことを質問しようと口を開いた。
「あの……それで、俺、どうしてあの後、他の施設に移ったんですか?」
「それは……」
女性職員は直ぐには答えず言葉に詰まった。しかし、覚悟を決めたように再び話し出す。
「さっきも言ったけど。推測の域を超えないこともあるし、私で言えることだけ言うわね」
「お願いします」
「アキちゃんと氷雅くんは一緒にいるべきではないって私たちが判断したの」
「…………」
「仲良しなのはいいことだけど、2人になるとこちらの言うことを聞かないこともよくあったし、またあの事故みたいなことが起こったら大変だと思って」
「だけど……」
そんな、2人だと悪戯が過ぎる、という理由だけで、施設を移動しなければならないくらい引き離されなくてはならなかったのだろうか。
そんな晃良の疑問を察したかのように、女性職員は少し困ったような顔をして話を続けた。
「実はね、あの事故の時、アキちゃんの怪我の具合を見ようとアキちゃんの服を脱がせたんだけど……」
そこで、女性職員が一旦言葉を止めた。どう伝えようかと迷っているような表情だった。やがて、ここまで言ったのなら、という決心めいた顔で晃良の目を正面から見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「キスマークみたいなのがね、いっぱい付いてたのよ」
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