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Touched on the past ⑲
車の中ではほとんど会話がなかった。明らかに、黒埼が晃良と深い会話をすることを拒否していたからだ。無言の拒絶。晃良にはその壁を壊してまで黒埼の中に入り込む権利も勇気もなかった。
自分自身を殴ってやりたい気分だった。自分から知りたい、と黒埼に言ったくせに。黒埼に無理やり言わせたくせに。いざ耳にしたら怖じ気づいて、歩み寄ってきた黒埼に躊躇してしまった。黒埼との想像以上に親密な過去を突きつけられて、自分は逃げたのだ。そして黒埼を傷つけた。
きっと黒埼は傷つくのが嫌だったのだろう。こんな風に晃良が戸惑って引くことを予想していたのだろう。だから晃良が思い出すまでは何も答えたくないと言っていたのだ。そんな黒埼の気持ちも晃良の我が儘で踏みにじってしまった。
途中のサービスエリアで遅い昼食を済ませる間も、行きとは対照的に気まずい空気が流れていた。温泉地に戻ったら、黒埼は有栖と合流してすぐに空港へ向かい、アメリカへ帰国する予定だった。
こんな気持ちのまま、黒埼と別れていいのか。もしかすると今回のことで黒埼は失望して晃良を諦めるかもしれない。連絡を絶つかもしれない。それは、もともと晃良が望んでいたことだったのに。
晃良の胸の奥が再び息苦しくなる。
今はそれが嫌でしかたない。こんな風に黒埼と永遠に別れるかもしれないなんて。理屈ではなく。黒埼への情がなんだとか関係なく。ただ、このまま黒埼と終わりたくない。そう強く思った。
「行こっか」
そう言って黒埼が席から立ち上がった。とっさに黒埼の左腕を掴む。
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