『しょっちゅう来てたし。ジュンと。よく色んなところ行ってるから』 　黒埼とこのレストランへ来た時、黒埼は有栖としか来ていないようなニュアンスでそう言っていた。その際、晃良の中で何かが腑に落ちない感じがしたのだが、それはきっと黒埼が嘘をついていたからだ。誤魔化すような気配を晃良が敏感に感じ取ったのだろう。 　それは、思いのほか晃良にショックを与えた。 　なんで嘘つくわけ？ 　それに。晃良をずっと想っていたと言っていたが、結局のところ、他でも相手がいたわけだ。どうやら相手は頻繁に変わっていたみたいだが。こんな高級なレストランに何でもない相手としょっちゅう来るわけがないし。晃良にストーカー行為を働いている一方で、他の誰かともちゃんと遊んでいたのだろう。 　もちろん、晃良と再会する前のことのようだし、いくら晃良に惚れていたとしても20代の男が性欲を我慢できるわけがないので、他で経験があることがおかしくないのは分かっている。分かってはいるのだが。 　晃良の中に生まれた重い塊がさらに重くなる気がした。 「晃良くん、大丈夫？」 　ここ数日、尚人が晃良に対して何度もする問いかけをまた口にした。 「……大丈夫だけど。ちょっと、びっくりした」 「でも、晃良くんに会う前のことだし。まだどの人とも関係があったって決まったわけじゃないしね」 「そうそう、まあ確かにそれが事実だったら、黒埼くん、いい加減な奴だとは思うけどな」 「別に……黒埼がいい加減だろうとなんだろうと俺には関係ないけど……」 「……晃良くん。関係ないって言う割には凄い暗い顔になってるよ」 「あの……何か余計なことを言ってしまったみたいで……申し訳ありません」 　そこで、先ほどから晃良たちの様子を窺っていた店員が申し訳なさそうに頭を下げた。晃良は慌てて店員に声をかける。 「いえ、本当に全然大丈夫なんで。気にしないで下さい。聞いたのは俺らの方ですし」 　涼の交代時間も迫っていたので、とりあえず精算を済ませ何度も謝る店員を宥めながら外へと出た。 　先ほどまで快晴だった空に黒い雲が広がって、今にも雨が降り出しそうだった。それはまるで、今の晃良の気持ちを表しているかのような空模様だった。