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Just the way it is ⑧
ぐっと足を踏ん張りいつものように背筋を伸ばす。だが、体の芯が安定せずふわふわとした感覚が体中に広がった。意識して集中していないと、頭がすぐにぼうっとしてくる。
今朝起きた時に違和感はあった。しかし、ほとんど体調を崩したことのない晃良は、気のせいだと自分に思い込ませ、いつものように仕事へと赴いた。しかし、どうやら気のせいで済ませるには無理があったようだ。
全ては自分が悪い。昨日、尚人と買い物から帰った後、何もやる気が起きずに夜まで自室に引きこもっていた。その後、風呂で浴槽に浸かりながらずっと1人もんもんと黒埼のことを考えて過ごしたのだが、どうやらその時、長湯をし過ぎて体力を奪われた上、湯冷めをして風邪をひいたらしかった。
自分でも分からない。自分はなんでこんなに落ちているのだろう。
黒埼から連絡がなくて動揺して。けれど花束だけは変わらず贈られてくることに、黒埼が晃良を見限ったわけではないのではと少しだけほっとして。そんなほっとした自分にまた動揺して。そんな自分でもわけの分からない感情に揺すぶられている時に黒埼の嘘が分かって。他でも関係があったかもしれないと知ってしまって。
よく考えてみれば。その黒埼の行動に対して、晃良は意見を言う立場でもないし、その権利もない。黒埼と付き合っているわけではないし、ただ向こうの一方的なアピールを受けていただけで、しかも元々自分はそれを迷惑がっていたのだから。
「晃良くん」
尚人が出入り口の反対側に立ってこちらを見ていた。
「ん?」
「……晃良くん、体調悪いんじゃない?」
「いや……大丈夫。ちょっと風邪気味だけど、大したことないから」
「……でも、無理はダメだよ」
「ん、分かってる。心配してくれてありがとな」
今日はクライアントが市民ホールで行われる講演会に出演予定だったため、晃良と尚人、それと何人かのBGがホールのそれぞれの出入口に配置され、不審者がいないかどうか警備にあたっていた。普段の行動パターンと異なる上、一般人がアクセスしやすい公共施設は狙う側にとっては都合がいい。警備の人数が増やされて厳重な警戒がしかれていた。
いくら体調が悪いからといって仕事で迷惑をかけるわけにはいかない。最近ずっと尚人に心配をかけっぱなしなのも申し訳がなかった。晃良は気合いを入れ直し、周辺に意識を集中した。
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