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Just the way it is ⑨

 講演開始から1時間ほど過ぎたころ。  ん?  市民ホールの駐車場付近。ジャージのような服を着た男が立っていた。頭の中で素早く男を分析する。通常、不審者の特定は様々な要素に従って判断される。1つは周辺とその人物がマッチしているかどうか。今回の市民ホールで行われている講習会はビジネス向けの講習で、参加者はフォーマル、セミフォーマルな格好をした人たちがほとんどだった。その中に、ジャージでいる人物はこの場に似つかわしくない。  晃良はその男を遠くから注意深く観察した。男はポケットに手を突っ込んだまま、じっとこちらを見ている。  大抵の場合、その場に集まった人はその目的に合った行動を取る。例えば、駅にいる人たちは電車に乗ったり待ち合わせをする目的のため、携帯で時刻を確認したり、掲示板を見上げたりする。そこで何もせずぼうっと立っていたり、ある特定の人をじっと見つめていたりする者は目的に合っていない行動をする人物、すなわちアブノーマルに分けられる。これが判断の2つ目。  もし、このジャージの男が市民館前での待ち合わせや車に乗る目的があるならばそれ相応の行動があるはずだが、相変わらず微動だにせず、じっとこちらを伺っている。  晃良は事前に渡されていたクライアントとトラブルがあった人物のリストを頭に思い浮かべた。その中に、この男の顔はあったか。ジャージの男は眼鏡をかけて、マスクをしていた。それでも顔の骨格や目の大きさなどからできる限り判断する。  あいつだ。  ジャージの男はリストの中の1人に酷似していた。確か、クライアントの元秘書だった男で上野という名前だった。この時点でこの男はクライアントに対し害意があると判断され、先ほどの判断要素も踏まえた上で不審者と確定された。 「尚人」  名前を呼ぶと、尚人がすぐ晃良の目線を追って同じ男に注目したのが分かった。 「あいつ……リストにいた奴に似てる。元秘書だったっけ?」 「そう。たぶん、間違いない」 「……どうする?」 「様子を見てもいいけど……。リストに載っている奴だって確認ができるならあらかじめ排除でもいいかもな。要人外出までの時間は?」 「まだあと1時間はある」 「……そしたら、けん制しておいてもいいかもな」  素早く無線で不審者発見の報告をして、応援を呼ぶ。尚人と一緒にゆっくりとそのジャージ姿の男に近付いていった。

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