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Just the way it is ⑪
「晃良くん、大丈夫??」
「うん、怪我もない。ありがとな、尚人」
そんな会話を尚人と交わしていると。
「乾!! 後方!!」
少し離れたところで野次馬の整備をしようとしていたBGの1人が叫んだ。はっとして振り返る。
「その人を離してぇええ!!」
いつの間にか晃良の後方に女が1人立っていた。両手で包丁を持って晃良に突進してくる。どうやら、駐車場の隅にある植え込みの中に隠れていたようだ。男に集中するあまり、死角になる箇所の確認を怠っていた。
しかし、突進してきたものの、女から殺意は感じられなかった。震える手で弱々しく晃良へと包丁が突きつけられた瞬間に、上手くかわして身柄の確保をした。女は晃良に捕らえられると、激しく泣き始めた。
その姿を見て心が痛む。もちろん、相手を傷つけるような行為はあってはならない。だが、きっと彼女にしろあのジャージの男にしろ、そこまで追い詰められた理由があって、その理由が全く自分には非のないことだとしたら。
こういう時に、晃良はなんとも言えないやるせなさを感じる。本当の被害者は一体どちらなのだろう。
警察へ男と女の身柄を渡した後、尚人が晃良の元へと近付いてきた。そのまま何も言わずに晃良の額に手を乗せる。
「尚人?」
「あつっ! 晃良くん、熱、めちゃめちゃあるじゃん!! 早く家に帰って休まないと!」
「いや、でもまだ仕事が……」
「何言ってんの?? こんなんで仕事なんできるわけないじゃん! 代行手配してもらうから」
そう言って尚人がすぐに近くのBGに事情を話してエージェントに連絡を取ってもらっていた。
「10分で来るから。そしたら引き継ぎしてすぐ帰って。1人で帰れる?」
「ん、大丈夫」
「6時ぐらいには俺も帰れるから。涼ちゃんも今日は帰ってくる予定だし。それまで家で大人しくしててよ」
「分かった」
「しんどくなったらタクシーでも何でも使って病院行ってよ?」
「うん」
有無を言わさない尚人の口調に、大人しく頷いた。
まもなくして代行のBGが現れたので引き継ぎをする。その際に耳に入ってきたのだが、先ほどの不審者の男女は夫婦だったらしい。クライアントの男が秘書だったジャージの男の妻を見初めて、無理やり関係を持った上に妊娠までさせたらしい。やはり晃良が予想したとおり、彼らには非のない理由だったのだと分かり、なんとなくこちらの気分も沈む。
尚人が呼んでくれたタクシーが到着したので、尚人たちに挨拶をしてマンションまで向かった。
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