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Just the way it is ㉒

「アキちゃん?」  黙って黒埼を見ている晃良を怪訝に思ったのか、黒埼が話しかけてきた。 「……ありがとう」 「……そんなのいいって。元々アキちゃんのだし」 「でも……大事に取っといてくれたんだろ?」 「そうだけど……」 「なんか……申し訳なくて。俺、お前にもらってばっかりだから。何も返せないし」 「そんなこと気にしてたの? 俺はアキちゃんがいたらそれでいいよ」 「……だけど……」 「そしたらぁ。アキちゃんからチューしてくれたらそれでご破算ってのは?」  ニヤけたいつものやらしい顔になった黒埼が言った。 「……いいよ」 「え?? ほんとに??」  予想外の返答だったらしく、黒埼が目を見開いて驚いた顔を見せた。 「どうしたの? アキちゃん。いつもは、何言ってんだよっ! とか、バカかっ! とか言って絶対1回拒否するじゃん」 「別に……。風邪だから……判断力が鈍ってんのかもな……」 「そうなの?」 「ん。まあ、そんなのがお返しなのも悪いけど」 「そんなわけないじゃん。最高のお返しじゃん」  だって、アキちゃんからだし。と黒埼が興奮した様子で付け加えた。 「風邪ひきのアキちゃんいいよな。いつもより素直だし、ふわふわして可愛いいし」  風邪のせいじゃねーよ。  心の中でそう吐き出しつつ、晃良は黒埼のニットの襟辺りをぐっと掴んだ。少し強引に黒埼を引き寄せて、その勢いのまま唇を重ねる。目を瞑っていても、黒埼が驚喜の顔で自分のキスを受けているのが伝わってきた。軽く何度か唇を押しつけて、少し迷いつつも、そっと舌を黒埼の口内へと侵入させた。すぐに黒埼の舌に強く絡まれる。 「ん……」  しばらく舌を絡ませ合いながら口内をさまよっていると、ふと気づいた。そっと舌を抜いて唇を一旦離す。 「俺、風邪だった。移るぞ」 「そんなのいいって」  即座に黒埼が答える。目と鼻の先で見つめ合う。黒埼の顔が男前の笑顔に変わった。 「風邪なんてひいてもなんでもいい。今、アキちゃんに触りたい」 「でも……んっ……」  ふいに後頭部をぐっと押されるように掴まれて再び唇が重なった。そこからはただ、お互いの唇を貪った。  体のほてりが酷くなる。息づかいも荒くなってきた。ふと黒埼の手が、晃良のTシャツへと侵入してきた。優しく脇腹辺りを撫でられて、思わずピクリと体が反応する。  この時。確かに晃良は風邪のせいで判断力が鈍っていたと思う。でも、きっとそれだけじゃない。それも分かっていた。このまま。黒埼とそういう関係になってもいいか。そう思えた。それは、ラブホテルで安易に受け入れたあの時の感情とは違う。  それによって訪れる快楽も。その後に自分を襲う苦しさも。全て覚悟の上だった。  晃良はゆっくりと黒埼の背中に腕を回した。しかし。その直後、黒埼の唇がそっと晃良から離れていった。服の中に入れられていた手も外される。 「黒埼……?」 「アキちゃん。ここまでにしとこ。お返しはもう十分だから」 「…………」 「アキちゃん、体熱いよ。熱また上がったんじゃない? 無理せずに安静にしてないと長引くから」  ほら、ちょっと休んで。そう言って、半ば強制的にベッドに横にさせられた。晃良の中の引っかかりがまた大きくなった。

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