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Just the way it is ㉑
黒埼が鞄の中から、今度は四角形の箱を取り出した。そちらには包装はされていなかったが、大切に保管されていたような感じが窺 えた。
「何?」
「まあ、開けてみて」
なんだろうと思いながら箱を開ける。
「あ……」
それは、帽子だった。もちろん、晃良も覚えている。何度も何度も夢の中で見た、あの事故のきっかけにもなった帽子。子供用の小さな野球帽。
「これ……」
「アキちゃんは覚えてないかもしれないけど、アキの大事なものだったから。ずっと持ってた」
「……これって……」
「アキの両親からのプレゼントだったって。大きくなったらプレゼントしようと思ってあらかじめ買っておいたんじゃないかって言ってた。遺品の中から見つかって、施設に届けられたみたいだけど。それが被れるようになってから、アキはほとんどそれ被ってたから」
「俺の両親からの……」
晃良は箱から帽子を取り出した。奇妙な感じだった。自分には全く両親の記憶がない。施設に預けられたのは2歳ぐらいの時だったのだから、事故で記憶を失っていなくても、両親の記憶などほぼなかっただろう。だから突然、親の存在を示すようなモノが目の前に現れて、不思議な気分がした。
でも、きっとこの帽子だけが晃良の両親が確かに存在して、晃良を大切に思ってくれた証拠なのだ。幼い頃の自分にとっても大事な物だったからこそ、黒埼はあの時、自分の身の危険も顧みず川に飛び込んで、この帽子を取り戻そうとしてくれたのだ。
黒埼の顔を再び見る。優しい顔でこちらを見ている黒埼と目が合う。その瞬間、何か熱くて、激しい、泣きたくなるような感情が晃良の中からぐわっと駆け巡った。
帰りのタクシーの中、ぼんやりと黒埼のことを考えていたことを思い出した。
自分は、黒埼のことなどなんとも思っていない。
そう頑なに暗示をかけていた自分が揺らいでいったあの瞬間。はっきりと自覚した。いや、もうとっくに分かっていたことを、認めざるを得なかった。
どれだけ抵抗したところで。どれだけ不本意だと思ったところで。どれだけ嫌だと否定したところで。きっと避けようがなかったのだ。黒埼とのことで落ち込んだり、傷ついたり。そんな自分を自覚してしまったら。抵抗しようもない。もう、最初からこうなることは決まりきっていたのだ。しょうがないことだったのだ。きっと再会したあの時から。そう。自分はもう。
こいつに惚れてた。
それでも。それが例え分かったとしても。今、この気持ちを黒埼に素直に話す気にはまだなれなかった。自分の中に引っかかりがある。それはきっと黒埼自身も気づいていない。そして、晃良もその引っかかりをどう扱っていいのかまだよく分からなかった。
そのことが自分を苦しめると分かっていたからこそ、必死で自分の気持ちを認めようとしなかったのもある。
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