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Out of control ⑤
さてと、と言って黒埼が立ち上がった。素早く下着と服を身に着けていく。
「そしたら行くわ」
「え?? 今から帰んの?」
「ん。今夜はホテル取ってあるから。もうジュンは寝てるだろうけど」
「アシは?」
「レンタカー借りたから大丈夫」
「そうか……」
晃良の中に葛藤が生まれる。こんな遅くに追い出すのも申し訳ないし、それよりも、せっかく会えたのだから、できる限り時間を共にしたいと思った。しかし、素直になれない、いや、素直になることが色んな思惑でできないもう1人の晃良がそれを制止する。
「明日また来るわ。アキちゃん、休みでしょ?」
「ん……」
なぜ晃良の休みを知り尽くしているのかという疑問は、もうとっくの昔に追求するのは止めていた。ストーカー黒埼には晃良の行動を把握するのはきっとたやすいことなのだろう。
「デートしよ」
「お前いつまでいんの?」
「あさっての朝帰る」
「……そうか」
「だから、明日はアキちゃんとこ泊めて」
「……俺に拒否権ないだろ」
「アキちゃんだって、俺と一緒に寝たいよね?」
「……いや、別に」
「なにアキちゃん、さっきまであんなに素直だったのに」
「これがリアルな俺だし」
そう言うと、黒埼がじっと晃良を見て意味ありげに笑った。
「まあ……一緒にいたらもっと記憶戻るかもしれないじゃん」
「……そうだけど……」
「とりあえず明日来るから」
「……ん」
「じゃあね、アキちゃん」
そう言って、あっさり出ていこうとする黒埼を思わず引き留める。
「黒埼……」
黒埼がドアノブを持ったまま振り返った。
呼んでみたものの、何も言うことが思い浮かばなかった。
「どうしたの?」
「いや……何でもない」
そう言うと、黒埼がにやりと笑った。
「アキちゃん、チューして欲しいの?」
「はあ? 違うって」
「俺があっさり去っていくから、寂しくなったんでしょ? 分かってるってぇ。じゃ、チューしよ」
そう言って、黒埼が近付いてきた。思わず後ずさる。
「違うって。本当に何でもないから」
「何でもなくてもチューしたらいいじゃん」
「ちょっ、近付いてくんなって、おわっ」
ずりずりと後ずさりしたところで、ベッドの脇に足がぶつかってそのまま後ろ向きに倒れた。すかさず黒埼が上に乗り上げてくる。目が覚めた時と同じポジションに戻った。
「おやすみ、アキちゃん」
そう言って、優しくキスされた。数秒唇を重ねたあと、黒埼が晃良の上唇と下唇を交互に軽く挟んでから唇を離した。至近距離で見つめ合う。
「もう、アキちゃん。そんなエロい顔して。帰りたくなくなるじゃん」
帰らなかったらいいだろ。
そう言いそうになる自分をぐっと抑える。
「……早く帰れ。寝る時間なくなるだろ」
そう言うと、ふっと黒埼が笑って体を起こした。そのままベッドから下りて、ドアへと向かう。
「じゃあね、アキちゃん」
「……ん」
黒埼が音を立てずにドアを開けて出ていった。
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