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Ready to fight ③

 流しっぱなしだったテレビから、知った名前を呼ぶ声が流れてきたような気がして画面に目を向けた。同じタイミングで涼もテレビに目を向ける。  おいおい。マジか。  聞き間違えではなかった。テレビの画面には。あの、見慣れた顔の色白の男がインタビューを受けている場面が映っていた。 「黒埼くん……だよな?」  涼が信じられないものを見たという顔でニュースに聞き入っている。 『ヒョウガ・クロサキ・マクドナルド研究員チームが今回発表した論文は、今後の記憶障害に悩む患者に対する原因解明及び治療への糸口になるのではと期待されています』  記憶障害?  ニュースキャスターの説明によると、どうやら黒埼が研究していたのは記憶に関するものだったようだ。  今までの数々の研究により、人間は記憶を脳内の『エングラム細胞』と呼ばれる海馬の細胞群に書き込み、蓄積していることが判明していたが、その海馬内の細かい伝達経路や役割はよく分かっていなかったらしい。それをある研究チームが海馬にある主な2つの回路の内、1つが記憶の想起(思い出す)ための働きをしていることを明らかにしたのだが、黒埼のチームはその記憶の想起を促す回路にある物質を使って刺激を与えることによって、過去に失っていた記憶を呼び戻したり、回路の働きを通常に戻したりことが可能であることを発見したということだった。  それは、脳神経分野においてはかなりの快挙のようだった。まあ、国際ニュースになるくらいだから、そうなのだろうと晃良は納得する。 「なんか……あの黒埼くんからは想像できねえけど……この人、凄いんだな。名字はベタだったけど」 「そうだな……」 「記憶障害だって。晃良くん」 「……なんだよ」 「ほんと、黒埼くんってある意味一途だよな」 「…………」

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