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No matter what ④
自宅に着いて玄関に入った途端、ご飯の炊ける匂いが漂ってきた。買い物袋をがさがさ言わせてリビングへと向かう。
「ただいま」
「あ、晃良くん、おかえり」
「おかえり」
キッチンから尚人が顔だけ出し、リビングでテレビを見ていた涼も振り返って応えた。
「買ってきたぞ、しらたき。ついでに肉も買った」
「ありがとう。うわぁ、めちゃくちゃ高そうな肉じゃんっ。俺の用意したやつより高級」
「え? まじで? どんなん??」
尚人が袋から肉を取り出して眺めているところに涼も合流する。
「神戸牛じゃん。A5ランクだって。凄え霜降りじゃん」
「だろ? 美味そうだったから奮発した」
「晃良くん、太っ腹じゃん」
「まあ、日頃世話になってるからな、2人には」
「なんか……晃良くん、最近、機嫌いいよね」
意味深ないやらしい笑顔で尚人が晃良を見た。
「……そんなことないけど。いつもと一緒だろ」
「えー、一緒じゃないよなぁ? 涼ちゃん」
「ん。ほら、あれからだよな、前、黒崎くんが来てから」
「……なんでだよ」
「やーっと素直になったんだもんね、晃良くん」
「『アキちゃんが好きって言ってくれたー』ってうるさかったもんな、あの人」
「…………」
「それから毎日のように電話くるしな」
「あれは……誤算だった」
「なんで? いいじゃん。晃良くんにますます執着してんでしょ? 晃良くんからしたらいいことなんじゃないの?」
「そうでもない」
確かに。先月、黒崎と会った時、ずっと隠し続けてきた気持ちを素直に告白した。これからは堂々としてやろうと思った。過去の自分に負けないように。黒崎の意識を「今」の自分に向けるように。
だが。まさか、毎日毎日電話が来て、同じ質問をされるとは思ってもみなかった。
『アキちゃん、俺のこと好き?』
最初の内は、普通に「好き」とか「好きだけど」とか答えていたのだが。段々面倒くさくなってきて、最近は「はいはい、好き好き」と適当に返したり、「好きだから」と電話を出て開口一番聞かれる前に答えたりするようになっていた。そんな雑な対応で、黒崎が飽きてくれたらという望みも持っていた(全く飽きてくれなかったが)。
『心がこもってない』
と不満そうに抗議していた黒崎だったが、言われること自体に悦が入るらしく、「好き」と聞ければとりあえずは満足のようだった。
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