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No matter what ⑧

尚人が画面を見て相手を確認する。 「あれ。エージェントからだ」 「こんな時間に?」 「ん……緊急かもね」 そう言って、尚人が電話に出た。 「久間です。はい。あ、仕事ですか? ……はい……はい。え? 乾ですか? はい……分かりました。詳細送ってもらえますか? はい……待ってます……失礼します」 晃良の名前が会話の中に出てきたので、自分へ仕事の依頼が入ったのだとピンときた。晃良たちの仕事の窓口は全て尚人に任せてある(マルチタスカーなので処理が早い)。だから仕事の依頼はいつも晃良ではなく、直接尚人に連絡がいくようになっていた。 電話を切った尚人に向かって尋ねる。 「俺?」 「うん……。だけど、ちょっと、珍しいかも。海外の顧客だって」 「海外? 俺に?」 「まあ、一応晃良くんだって海外での実績もそこそこあるし、依頼がくるのも変ではないけど……」 英語も不思議と伝わるし。そう言って、尚人が笑った。晃良は英語が得意ではない。けれど、国際的にBGとして仕事をするならば英語取得は必須だった。晃良はその昔、泣きながらなんとかコミュニケーションが取れるようになるまで涼に叱咤激励(しったげきれい)されつつ英語の特訓をしたことを思い出す。そのおかげでなんとかそこそこ上達はしたが、海外での仕事がくる時は大抵英語の得意な涼か尚人がセットになることがほとんどだった。 「尚人と涼は?」 「それが、晃良くんだけだって。日本からは」 「……なんか、いつもと違うな」 「そうだね……。しかもかなり急だし。明後日から付いて欲しいって」 「は? 明後日?」 「うん。飛行機のチケットやホテルの手配はできてるらしいから」 「詳細は?」 「すぐに資料送ってくれるって」 通常、警護に付くには入念な準備を必要とするため余裕を持って依頼がくることが多い。だから、こんな直近で連絡がくることは珍しかった。考えられるのは、誰か付くはずだったBGの都合が悪くなって代行が必要になったようなケースだが。それならばわざわざ海外からBGの代行を立てなくとも、国内から空きのある者を探せばいいのに。 釈然としないまま、資料がメールで送られてくるのを夕飯の片付けを続行しながら待つ。

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