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No matter what ⑨
「来たよ」
尚人が携帯を操作して、メールに添付されてきた資料をプリントアウトした。それぞれ資料に素早く目を通していく。
「アメリカだな」
「そうだね。このクライアント、最近人気のある若い男優だよね?」
「そうなのか?」
「うん。日系アメリカ人だったと思うけど」
「クリス・イノウエ……」
「まだ若いよ。24とかそんなの。だけど、あんまりいい噂聞かないけどね」
「そうなのか?」
「うん。性格悪いんだって。我儘らしいよ、かなり。気に入らないとすぐクビにしたりするらしいし。周りに自分好みの男しか置かないらしいから」
「ゲイなのか? この子」
「かなり前からカミングアウトしてるよ。まあ、本人も結構可愛い顔してんだよね。だから、業界のおっさんとかに可愛がられてるらしいし。そうじゃなかったら、そんな我儘なの、生き残れないだろうしさ」
「確かにな」
「もしかして……。晃良くんがご指名だったのって、晃良くんが好みの顔だったとか?」
「はあ? 俺はおっさんには受けいいけど、若い男にモテたことはないぞ」
「だけど、黒崎くんだって好きじゃん、晃良くんのこと。元彼たちもみんなおっさんじゃないし。晃良くんは総合して男にモテるんじゃない?」
「……それは有り難いことなのかなんなのか分かんねえけどな……ちゅーか、尚人、お前、ほんとによく知ってんな、ゴシップ系」
「晃良くんが知らなさ過ぎなんだって。こんなの有名な話だし」
くだらないゴシップ話はそれくらいにして、残りの資料を読み進めていく。どうやら、明後日の夜、映画業界でそこそこ有名なパーティーがカルフォルニア州で大々的に行われるらしいのだが、それにこのクライアントであるクリスが参加する予定になっており、その護衛として晃良始め何人かのBGが付くことになったようだ。
「まあ、パーティーの夜護衛に付くだけみたいだから。次の日には帰ってこれるだろうし、移動はしんどいけどそんなに大変ではないんじゃない?」
資料を見ながら尚人が言った。そこでふと、晃良にある考えが浮かぶ。
「どこだったっけ? カリフォルニア州?」
「うん」
「そうか……ちょっと、遠いか……」
そう呟くと、尚人が分かりやすくにやっと笑った。
「行ってくれば? メリーランド州でしょ? 遠いけど、飛行機移動したら半日で着くんだし」
「……だけど、向こうが忙しいかもしれないしな」
「聞いてみたらいいじゃん。そのまま休暇取ったら? 晃良くん、ずーっと働き詰めだし」
「まあ……」
「忙しいって言われたらちょっと会って帰ってくればいいじゃん。どうせ、黒崎くん月に1回くらいは日本に来てるんだし。ゆっくりできなくてもまたすぐ会えるでしょ」
「……そうだな」
尚人にも後押しされ、晃良は会えればいいか、ぐらいの気持ちで黒崎に連絡を取ってみようと自分の携帯に手を伸ばした。
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