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No matter what ⑲

 はっと目が覚めた。一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。が、すぐにここがどこかのホテルの一室だと自覚する。先ほどいた、豪華なスイートルームとはほど遠い、古くて安そうなホテルの客室。  後ろ手に何かビニール紐のようなもので縛られたまま、ベッドの上に転がされていた。服はそのままだった。その事実に、まだ何もされていないのだと少し安堵する。 「あ、目が覚めた?」  声がした方を鋭く睨み付ける。 「うわっ。怖っ。そんな怖い顔しなくてもいいじゃん」 「……俺に何をするつもりだ」 「えー、正直言って、まだなーんにも決めてないんだよねぇ」  アキラと直接話してから気分で決めようと思ってたから。  そう言って、クリスが軽く笑った。 「……お前、黒崎とどういう関係だ?」 「……あれ、それも分かってたんだ」 「俺に敵意むき出しにする理由なんて、それしかないだろ」  数秒睨み合う。晃良が先に口を開いた。 「日本におる時から、時々感じたあの視線。お前だったんだな」 「……どうして?」 「あんなネチっこい視線、なかなかないだろ。こっちでお前に見られた時、同じ視線だって気づいたわ」 「俺、目力強いって言われるからねぇ」  と冗談めかして答えるクリスを無表情で見返した。 「仲間に調べてもらった。俺が視線を感じた大体の日時と、お前の空いてるスケジュールがほぼ全て一致した」 「……そっか。そんなことも調べたんだ。なかなか優秀さんなんだね、アキラは」  クリスがテーブルの上に置いてあったビール瓶を手に取って一口飲んだ。たっぷりと間を取ってから、ゆっくりと話し出す。 「大変だったんだよー。休みの度に、日本に行ってさー」 「…………」 「でも。どんなヤツか見てみたかったんだ。ヒョウガが夢中の『アキちゃん』」 「…………」 「俺たちあんなに上手くいってたのに。ある日、急に『アキちゃん』がヒョウガの目の前に現れてさぁ。ヒョウガがあっさり俺を振ったんだよね」 「……付き合ってたのか」 「そうだよ。いつからだったかなぁ。1年くらい前? パーティーで会って。直ぐに気が合ってその日の内にそういう関係になって」 「…………」 「大事にしてくれてたのに。俺だけに笑いかけてくれたのに。お前が現れて、全てが変わっちゃった」  嫉妬にみなぎった目で晃良を睨み付けながら、クリスは話を続けた。

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