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No matter what ㉓

 ん?  クリスの後方、部屋の入り口に続く通路から音もなく人影が現れた。慌てた様子も緊張した様子もなく普通に入ってきた予想外の人物に目を見張る。 「……どうして?」 「俺が急いで来るまでもなかったな」  その声にクリスが驚いて振り返る。 「ヒョウガ……」  黒崎は少し不機嫌な顔をして晃良を見た。 「もう、アキちゃんを格好良く助けたかったのに~。アキちゃん強いわ~」 「いや、だってお前、パーティーだったんだろ? 大統領かなんかの」 「そんなの、断ってきた。アキちゃんの方が大事だから」 「は?? 怒られるんじゃねえ?」 「大丈夫だって。直接言ってきた。大統領のおっちゃんに。愛するアキちゃんをどうしても助けに行かなきゃいけないからって。そしたらおお、行ってこいって気持ちよく送り出してくれたよ」 「……お前と大統領ってどんな関係なわけ?」 「え? ……友達?」 「もういいわ……。それより、なんでここが分かったんだよ?」 「そんなん、愛の力だって」 「いやいや、そんなわけないだろ。からくり説明しろ」 「その前にさぁ、俺、何個か訂正したいことあんだけど、いい?」 「は?」  日本語でのやり取りが全く理解できないクリスが戸惑ったような顔で銃を構えたまま2人を交互に見ていた。部屋に入ってきた時から全くクリスの存在を無視していた黒崎が、初めてクリスに視線を投げた。 「クリス。銃しまえ」 「…………」  クリスは大人しく銃を下ろした。晃良が素早く近付いて、手から銃を奪ったが抵抗もしなかった。 「言っとくけど。お前との関係は、最初から感情抜きでっていうことだったよな。それでもいいからってお前が言って始まったんだろ」 「…………」 「それに、俺はお前と付き合ってるつもりは全くなかったし、お前を愛した覚えもない」 「嘘だっ!! そんなこと言って、本当は俺のこと愛してくれてただろ? こいつの手前、嘘ついてるだけだろ?? だって、俺が、愛されないわけがないっ!!」  黒崎が、はあっ、と大きく溜息を吐いた。 「お前は可哀想なヤツだな」  そう同情のこもった声で黒崎が言うと、クリスの顔が(ゆが)んだ。 「自分のことが一番可愛いんだな。だから、自分が愛されないわけないと思ってる。だけど、人を愛せないお前が他人から愛されると思うか?」 「…………」 「人から愛されたいんだったら、まずもっと可愛くなったらどうだ。顔じゃなくて性格な。ほら、アキちゃんみたいに。まあ、アキちゃんは顔も性格も可愛いいけど。あ、あと、俺はアキちゃん捨てないから。そこも訂正」  黒崎が言いたいことを一気に口に出してからじっとクリスを見た。 「もう、行け。二度と俺とアキちゃんの前に現れるな。本当はアキちゃんにしたことの落とし前を付けてもらいたいとこだけど。アキちゃんの束縛ポーズが見れたし、今回のことは水に流すわ」  あ、それと、こいつらも連れてって。そう言って、黒崎が床に倒れていた男たちを指差した。  クリスは、叱られて泣くのを必死で堪える子供のような顔をして、ふんっと晃良も黒崎も無視してずんずんと部屋を出ていった。

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